「松田さんの番号」…なぜ山川穂高に託された? 明かされた“3つの理由”と球団の思い

契約更改を行ったソフトバンク・山川穂高【写真:竹村岳】
契約更改を行ったソフトバンク・山川穂高【写真:竹村岳】

契約更改後に明言「松田さんの番号なので恥じないプレーをしたい」

 伝統ある番号を受け継ぐことになった。語られたのは“3つの理由”だ。ソフトバンクの山川穂高内野手が22日、みずほPayPayドームで契約更改交渉に臨み、1億5000万円アップの4億5000万円でサインした(金額は推定)。会見が終わろうとした時、自ら切り出したのが背番号の変更だった。「来年からですね、背番号が5番になります」と明言した。

 昨オフに国内FA権を行使して、西武から移籍した。143試合に4番打者として出場し打率.247。34本塁打、99打点で2冠に輝いた。「フル出場してリーグ優勝して、ずっと4番を打ったこと、ホームランと打点のタイトルを獲れたことは大満足です。ただ、数字としては40本を打ちたかったし、打率も260から270くらいは打ちたかった。打点も100超えはそうですけど、120は欲しかった。個人的な数字は満足していないし、日本一にもなれなかったので」と振り返る。言葉からは強い向上心だけがにじみ出ていた。

 5番の前任者といえば、松田宣浩氏だ。2022年オフにホークスを退団。2年間、空き番となっていた。山川も「25番ももちろん嬉しかったんですけど、日本の野球の中で1桁というのは価値が高いものだと思います。何より松田さんの番号なので、恥じないプレーをしたいです」と言い聞かせる。偉大な選手がつけた背番号を継承するにあたって、どんな背景があったのか。

「どすこい」。山川だけのホームランパフォーマンスは、松田氏の「熱男」からインスピレーションを受けて始めたことだと、シーズン前から明かしてきた。プロ野球の世界を「エンターテインメント」だと表現し、いつもファンを喜ばせることを考えてきた主砲。今季はシーズン34本のアーチを描き、ホークスファンにも深く浸透した。スタンドが同じポーズに“染まる”瞬間を「嬉しい以外の何物でもない。僕以外には見られない景色ですから」。契約更改の会見という場でも、リスペクトを込めて、こう続けた。

「最初は松田さんの真似から始めたこと。(昨オフに)引退をされて、今スタンドに向けてパフォーマンスするのは僕と、牧(秀悟、DeNA)がやっているんですかね? (ホームランパフォーマンスをするのは)限られた人だと思うので、できれば最後までやっていきたいです」

 西武時代、“外”から見てきたホークスのイメージを「松田さん、内川(聖一)さん、柳田さん」と話していた。5番がホークスファンにとって、どんな番号かということも、当然わかっている。「受け継ぐということもそうですけど、番号にはそれぞれ思い入れがありますよね。僕自身も新しくつけますけど、それでホームラン王を獲ったりすれば浸透していくと思うので。来年1年、いい数字にしたいです」と背筋を伸ばす。

 この日、決まったこと。松田氏にはまだ「話していないです。(報告するなら)『似合っています?』とか、そんな感じですかね」と照れ笑いを浮かべた。「本当に、番号が変わるのも嬉しいですけど、身が引き締まる思いもある。これは常々、持ち続けなければいけないものなので、今の僕の『5番をもらってさらに来季頑張ろう』というモチベーションになっている」と繰り返した。

 契約更改交渉に同席したのは三笠杉彦GMだった。背番号変更は「本人の希望があったので、5番をつけてもらうという話をしました」と、経緯の一部を明かす。2年間、空き番にしていたのも、球団として5番を大切にしていた証。松田氏の存在を踏まえて、山川に託した思いも「優勝に貢献してくれた大主力の1人ですので、そういうところです」と語った。生え抜きと移籍、経歴に違いはあれど1桁を背負うのにふさわしいと判断したことは間違いないだろう。

 松田氏へのリスペクト、1桁への憧れ、さらなる進化のため。会見では笑顔も見せる一方で、発言する表情はしっかりと引き締まっていた。「黄金時代を作りたい。来年も自分の仕事を全うして、2連覇は必ず達成したい。優勝と、ホームラン、打点の2冠はセットだと思っています。僕が打ちまくって優勝できたら最高の形なので、それを目指して練習していきたいです」。山川の覚悟と向上心がきっと、5番をつけた背中から伝わってくる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)