GG賞の発表は11月12日…ホークス野手陣が“総ナメ”でも納得できる証拠
2024年シーズンが終了したプロ野球界では今後、各表彰の発表が続いていく。特に注目を集めるひとつは、両リーグで守備のスペシャリストを決める「三井ゴールデン・グラブ賞」だ。今年は11月12日に発表される。
同賞は記者投票によって決められる。打撃と違い、判断を主観に委ねるケースが多い守備の表彰は、毎年のように議論を巻き起こす。ただ現代は、守備にも先進的な指標が登場している。今回はセイバーメトリクスの守備指標を用いて、ホークス野手陣の守備力をおさらいする。どの選手がゴールデン・グラブ賞にふさわしいパフォーマンスを見せていたのだろうか。
守備の評価には「同じイニングを守った場合、平均的な選手と比較して、どれだけ失点を防いだか」を表すUZR(Ultimate Zone Rating)という指標を用いる。たとえば、ある選手が遊撃で1000イニングを守り、UZRが5.0だったとする。この場合、この選手はNPB平均レベルの遊撃手が1000イニング守った場合よりも、5点分の失点を防いだことになる。
これはチーム単位で見ても同じ考え方ができる。たとえばある球団の遊撃UZRが+10.0であれば、そのチームは遊撃の守備でNPB平均よりも10点分の失点を防いだと考えることができる。
今回はUZRの枠組みでの評価が困難な投手、捕手を除いた7ポジションを順に見ていきたい。
各ポジションごとの数値を見ていく前に、表の見方を説明したい。上の表は各チームにおける一塁手のUZRを集計したものだ。ホークスの「7.8」という数字は、今季ホークスの一塁手が平均よりも7.8点分の失点を防いだことを意味する。これらの数字はセ・リーグを含むNPB全体で集計されているため、合計がゼロにはならない。
一塁手のUZRでパ・リーグトップを記録したのはホークス。主に一塁を守った山川穂高内野手(802.1イニング)は、UZR5.4をマークした。これは平均的な一塁手が同じイニング数を守った場合に比べ、5.4点分の失点を防いだという評価だ。
今季、本塁打と打点の2冠に輝いた山川は豪快な打撃が目立ちがちだが、守備でも非常に器用な動きを見せる。ゴールデン・グラブ賞に選ばれた経験こそないものの、守備が上手い選手という印象がある人も多いのではないか。一方で、UZRで見ると2020年以降の山川は毎年、平均よりも失点を増やしていたとの結果が出ている。印象に反して、守備での貢献はあまり高くなかったようだ。ただ、ホークスに移籍した今季は一変。データで見ると、ゴールデン・グラブ賞候補と言っていいだけの守備を見せていたと言えそうだ。
○二塁:ソフトバンク UZR2.3(リーグ4位)
二塁を見ると、ホークスはリーグで4位と下位に甘んじている。とはいえUZR2.3とリーグ平均よりも優秀だ。チームの中で最もUZRが高かったのは牧原大成内野手(591.2イニング)の「2.6」。平均的な二塁手よりも2.6点分の失点を減らしていたという評価だ。今季のホークスは二塁手のレギュラーと呼べる選手がおらず、廣瀬隆太内野手(264イニング、UZR1.0)や、三森大貴内野手(160イニング、UZR-0.4)らが起用された。その中でもっとも高いUZRを記録したのが牧原大成で、持ち前の守備力がチームの穴を埋める形となった。ゴールデン・グラブ賞とまではいかないかもしれないが、データの面でも優れた守備を見せていた。
○三塁:ソフトバンク UZR20.1(リーグ1位)
今季の全143試合のうち、137試合で三塁手として先発したのが栗原陵矢内野手だ。元々は捕手として入団し、外野、そして三塁へコンバートされてきた選手だ。三塁に定着した昨季はリーグトップとなるUZR8.6をマーク。今季はその数字を18.2まで伸ばした。これは12球団トップの数値。ゴールデン・グラブ賞にふさわしい守備を見せていたことがわかる。
この数字、実は今季だけでなく歴史をさかのぼっても傑出したものだ。DELTAがUZRを公開している2014年以降で見た場合、三塁UZR18.2はなんと歴代1位の数字。歴史的に見ても圧倒的な守備力を発揮したのが今季の栗原だった。名手と呼べるほどの守備力の高さをデータは示している。
ホークスの遊撃UZRは「2.9」で、リーグ3位にランクインした。主に遊撃を務めた今宮健太内野手は1071.2イニングでUZR1.3を記録している。
かつてはゴールデン・グラブ賞の常連であり、守備の名手として知られる今宮が、ほぼ平均レベルでしか失点を防げていないことを意外に思う人もいるだろうが、この数字は昨季と比較するとかなり優秀な成績だ。昨季のUZRはリーグ遊撃手でワーストとなる「-9.7」。データ面で今宮の守備は年々衰えてきていると言うことができる。しかし、今季は一転してプラスの守備貢献を記録。今年7月に33歳を迎え、遊撃手としてはベテランに差しかかっていることを考えると、この復調は驚異的と言える。
○左翼:ソフトバンク UZR18.6(リーグ1位)
ホークスの左翼はUZR18.6をマーク。「14.8」で2位につけた日本ハムとともに、他球団に対して守備で大きな差をつけていたようだ。主に左翼を務めた近藤健介外野手はUZR17.5を記録している。
この数字は2014年以降、左翼としては歴代4位にあたる。守備範囲の広さだけでなく、走者の進塁抑止、または刺すことでも優れた働きをしていたようだ。打撃での活躍が印象的な近藤だが、チームへの貢献は打撃面に留まらない。まさにオールラウンドな活躍であった。
○中堅:ソフトバンク UZR19.0(リーグ1位)
中堅でもホークスは他球団に大きな差をつけてトップに立った。チームの中堅UZRは19.0。NPB平均レベルの中堅手が守った場合に比べ、19点分も失点を防いだという評価だ。この大きなアドバンテージを築いたのは、やはり周東佑京内野手である。956.1イニングで中堅を守り、UZR12.8を記録。これは12球団トップの評価だ。
守備力の要となっているのは、やはりそのスピードだ。外野手のUZRは複数の項目から成立しており、その中には「守備範囲評価」というものがある。まさにスピードが生かされそうな分野で記録した数値は「10.7」。つまり守備範囲の広さによって、平均的な中堅手と比較して10.7点分もの失点を防いだことになる。ホークスファンであれば、長打コースの打球が周東の圧倒的な守備範囲の広さによってアウトになったシーンを度々見てきたはずだ。これまでデータでは表せないと考えられてきたファインプレーも、UZRには反映されている。データの観点から見ても、周東は文句なしのゴールデン・グラブ賞候補である。
○右翼:ソフトバンク UZR11.4(リーグ2位)
右翼では日本ハムがUZR15.4を記録し、リーグトップだった。ホークスは「11.4」で2位となっている。日本ハムで主に右翼を務めたのは万波中正外野手だ。圧倒的な強肩で何度も失点を防ぐ光景はファンの印象にも残っているのではないか。ホークスでは正木智也外野手がUZR3.2(373.1イニング)を記録している。
ホークスの右翼はここ数年、柳田悠岐外野手の出場数が最も多かった。今季は柳田が長期離脱した穴を、正木や川村友斗外野手らが埋めた格好だ。正木、柳田(327イニング、UZR2.3)、川村(219.2イニング、UZR1.2)の3人はそれぞれプラスのUZRを記録したほか、守備固めとして多く起用された緒方理貢外野手も52.1イニングでUZR2.2。柳田の離脱による打撃力低下は痛手となったが、若手が中心となって守備面ではカバーできていたようだ。
■過去と比較しても歴史的な守備力を発揮した2024年のホークス
ポジション別に見ていくと、7ポジションのうち一塁、三塁、左翼、中堅の4つでホークスがトップに立った。それぞれのポジションを主に務めた山川、栗原、近藤、周東はゴールデン・グラブ賞に選出されて然るべき活躍だったと言えそうだ。今季、多くのポジションで好成績を収めただけに、チーム全体で見ても守備力は圧倒的なものとなっている。以下の表は今季のパ・リーグにおけるチーム別UZRランキングだ。
ホークスのチームUZRは85.9。平均的な守備力のチームと比較して、85.9点分もの失点を防いだという評価だ。リーグ2位の日本ハムはUZR38.0。実はこの数字も非常に優秀で、例年であればリーグトップになってもおかしくないものだが、優秀な守備力を誇るチームでも及ばない圧倒的なディフェンス力を持っていたのが今季のホークスだった。以前、今季の打線が“ダイハード打線”を上回る破壊力を有していたことを紹介したが、歴史的だったのは守備面でも同様だった。
これだけの圧倒的な差をつけた要因は、「守備範囲の広さ」にある。UZRを構成する要素の1つである「守備範囲評価」を見てみよう。簡単に説明すると、処理の難しい打球をより多くアウトにすることで、値が上昇するものだ。
ホークスの守備範囲評価はパ・リーグトップとなる62.3。さきほどチームUZRが「85.9」であることを紹介したが、その大半は内外野の守備範囲の広さによってもたらされているようだ。
ここまで今季のホークスが誇った守備力をパ・リーグの他球団と比較してきたが、これほどの圧倒的な数値であれば、歴代のチームと比較してもトップクラスなのではないか。DELTAには今季を含めた11年間の各チームのデータが蓄積されている。歴代チームのUZRと比較してみよう。
今季ホークスが記録したUZR85.9は、なんと2014年の計測開始史上、トップの成績だった。表にはかつて強力な守備力を誇ったチームがランクインしている。そんな中で今季のホークスが記録したチームUZRはこれらを大きく上回っている。
たとえば歴代3位に入った2018年の西武は、源田壮亮内野手を中心にチームUZR58.6を記録。この年の西武は「山賊打線」と呼ばれ、森友哉捕手や山川ら強打の選手を多く揃えた打撃のチームという印象が強い。しかし、源田や金子侑司外野手ら、非常に優れた守備力を持つ選手も多かった。そんな当時の西武と比べても、今季のホークスは27.3点分も上回っている。
今季のホークスの1試合平均失点はリーグ最少の2.73点。投手タイトルを獲得した有原航平投手やリバン・モイネロ投手を中心に、強力な投手陣によって失点を防いだと考える人も多いはずだ。しかし、セイバーメトリクスの分析によると、実は投手陣はそこまで優秀と言えるほどではない。失点を防げたのは投手よりも野手の守備力によるところが大きかった。ゴールデン・グラブ賞においても、複数選手が名を連ねて然るべきだろう。
DELTA http://deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。