今宮が語る柳田と中村晃…秘話「愚痴も聞いたことない」 自覚が芽生えた8月の出来事

ソフトバンク・今宮健太(左)と中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・今宮健太(左)と中村晃【写真:竹村岳】

中村晃は本気で現役引退も考えた1年…苦しむ姿を今宮はどう見ていたのか?

 4年ぶりにリーグ優勝を掴んだ今シーズン。チームを引っ張っていたのが、今宮健太内野手だ。本人がどれだけ謙遜しようが、そのリーダーシップはひときわ輝いていた。133試合に出場して打率.262、6本塁打、39打点。日本シリーズではDeNAに2勝4敗で敗れたものの、個人では敢闘賞を獲得した。そんな今宮ですら「正直、どうすることもできなかった」と振り返る期間。盟友である柳田悠岐外野手、中村晃外野手について、赤裸々に胸中を語る。「晃さんの愚痴なんて聞いたことがないです」――。

 何度も経験してきたリーグ優勝だが、過去を振り返れば「完全に先輩たちについていっていた」という。時代は少しずつ変わり、後輩も増えた。自分自身が“引っ張る側”となって掴んだ頂点だった。中村晃は、今宮と柳田を「特別な存在」と表現する。3人ともに若手の時期からレギュラーを掴み、ともに常勝軍団を築いてきた。背番号6も「学年は(柳田が)3つと(中村晃が)2つ、違うんですかね。僕も晃さんと全く同じ思いです」と即答する。

 柳田は5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)で右ハムストリングを痛め、4か月の離脱を強いられた。中村晃はベンチを温める日が増え、本気で現役引退を考えるほど、自分自答を繰り返すシーズンだった。今宮は「周りを見る余裕はあまりなかったです」と苦笑いする。その上で「(自分の)年齢を考えれば33っていうところ。ゲームに入ればそうは言っていられない部分も確かにありました。目先のことに集中する中で、それ(後輩を引っ張ること)が今年に関しては一番大事だと思っていた」と、言葉で示していく重要性も実感した。

 柳田、中村晃との関係性について改めて話をすることも「特にないです」とキッパリ言い切る。もちろん互いをリスペクトするが故の“無言の信頼”であり、「晃さんの場合は、できていなかったら僕に言ってくれると思いますよ。今のところ言われないということは、晃さんの中では、僕は大丈夫なのかなと思いますけど」と笑みを浮かべた。

 中村晃は今季の自身の役割を踏まえ、「やっぱり批判もされますし。『自分がここで出ていっていいのかな』と思うことはシーズン中もありました」と吐露した。苦しむ姿は、今宮にどう見えていたのか。

「代打としての出場が増えることは、2月や3月のあたりから晃さん自身がわかっていたと思います。ずっとゲームに出ていた人だったので難しさはあったのかなと思いますし。苦しい思いは想像以上にあったんじゃないかと思います。僕だったら耐えられるのかな、とか。そんなことを考えていました」

ソフトバンク・今宮健太【写真:竹村岳】
ソフトバンク・今宮健太【写真:竹村岳】

 厳しいポジションで戦う背番号7の姿を見てきた。競争の世界。今宮自身もチーム内で勝ち続けてきたから、今の地位がある。「僕もいいショートが入ってくれば、そこと競う。遅かれ早かれ、自分もそういう時は来るので。その時はその時です」。だからこそ「晃さんの素晴らしさ、すごさは見習わないといけないです」と強調した。どれだけ苦しくても変わらない姿に、より強い尊敬の念を抱くシーズンにもなった。

「晃さんは年間を通してやることを変えなかったです。どんな状況でも淡々と。いきなりスタメンになっても、何も(変えることは)なかったですし。相当な覚悟がいると思うんですよね、代打って。僕も何試合かありましたけど、あれを常日頃から準備して、集中されている。どこで来るんだ、ここで来るのか、ここじゃなかったっていうのを転々としながら、どういうふうに精神状態を保っていくのか。そこの難しさはすごくあったと思う。だから、晃さんの愚痴とか聞いたことないですもんね」

 柳田は4か月の離脱を経て、9月30日から1軍に昇格した。中村晃は8月12日に背中痛で登録抹消され、9月7日に再昇格した。2人とも1軍にいなかった期間を、今宮は「正直、僕がどうすることもできなかった」と反省を込めて振り返る。グラウンドにいて“当たり前”というレギュラーの存在がいなくなり、改めて感じたことがあった。

「ギーさんがいなくなり、晃さんも1か月ほどいなかった時、僕がどうすることもできなかった。ベンチでしっかり声を出さなきゃな、とかも考えていましたし。ちょうど勝ったり勝てなかったりっていう時期でしたしね。やっぱり大事ですよね。晃さんが帰ってきて、チームとしてのベンチワークも変わったのは事実ですし、ギーさんが帰ってきた時も、存在というのはやはり大きいなと。いなくてはならない存在ってこういうことなんだなっていうのは感じました。僕もそこを目指してやりたいなと思っています」

 全員が一丸となることで、発揮される力がある。強いチームに、ナインを束ねるような存在は必要不可欠だ。今宮は「僕はリーダーではないです」と謙遜していたが、リーグ優勝に輝いた2024年、誰しもが認める立派な存在だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)