覚悟を決めたシーズン、先輩たちの言葉をより深い意味で理解できるようになった。ソフトバンクの杉山一樹投手は今季のレギュラーシーズンで、キャリアハイの50試合に登板。4勝0敗14ホールド1セーブ、防御率1.61という成績を残した。甲斐拓也捕手や栗原陵矢内野手らの助言を血肉に変えてきた実感が湧き上がる。
「(ダーウィンゾン)ヘルナンデス(投手)が年間を通して安定してくれていたのと、あとは杉山の成長ですよね。終盤は尾形(崇斗投手)も非常に良くなってきましたし、つくづく野球はピッチャーだなと感じる1年でしたね」
駆け抜けてきたプロ6年目。ただ、いま充足感に浸るわけにはいかない。杉山のシーズンの総括は「まだです。全部終わってからにしようかなと」。誰よりも強い覚悟を胸に腕を振り続けた右腕は、目の前の戦いにだけ集中している。
「(今年で)辞めるというつもりでやってきた。そのままシーズンオフまで行きたいなと思っています」
今年2月の春季キャンプ中、首脳陣は杉山に先発枠を争ってもらうことを想定していた。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)のもとに向かった右腕は「中継ぎをやらせてください」と直訴し、その場で「ダメならクビですから」とキッパリ言った。だからこそ、首脳陣への感謝は尽きない。
「僕の『中継ぎをやりたい』という意思を尊重してくれた。小久保さんと倉野さんが使ってくれたからですし、本当に感謝しています。僕自身も、チームのためにという思いが一番あったので。(過去の)5年間に比べたら、いろんな方とコミュニケーションも取れました」
才能を開花させられた要因は、「日々を丁寧に過ごしたことです」という。「自信もないけど、不安もない状態を作ることが僕の中で一番大事でした」。試合がある日でも、毎日欠かさずにウエートトレーニングをメニューに取り入れていた。やりたくない日はなかった。「そこにモチベーションはなかったです。当たり前のことですし、ご飯を食べるようなものでした」。日々の過ごし方を一定にしたことで、迷いもなくなっていった。生まれた効果は、偉大な先輩たちとの会話にも表れていた。
「今までは見られなかった視点で野球を見るようになりましたし、(甲斐)拓也さんとも話ができるようになりました。今宮(健太)さんとはこれまで話をすることはなかったんですけど、(今年は)少しずつさせてもらったりとか。外野手の方も後ろから見る僕のピッチングについて話してくれます。栗原さんもよく話をしてくれますし。逆に僕が野手の方に聞いたりもして……。そのへんが去年までとは全然違います」
マウンドに立っていれば、自然とコミュニケーションを取る機会も多くなった。甲斐とのやり取りに関しては「状況とか点差、試合の流れとかについても、拓さんの方が初回から(試合に)出ているわけじゃないですか。僕が覚えているデータと、実際に感じるバッターの雰囲気がある。例えば首を振ったなら、『実はこういう考えだったんです』って話をしたり」と明かす。余裕が生まれ始めていることを、自分でも実感した。「(これまでは)勝負ができていなかった」。自分のことだけで精一杯だった過去とは、もう違う。
「『チームのために』。そこに100%、自分の思いを振り切れていますし、スッと入っていける状態ができています」。26日から始まるDeNAとの日本シリーズを、必ず制す。その時、杉山一樹はどんな言葉で2024年を振り返るだろうか。