きっかけは2軍でのデビュー戦…「一番変化したと感じた時でした」
4年ぶりのリーグ優勝を果たしたホークス。鷹フルでは若手からベテラン、裏方さんの1人1人にスポットを当てて、1年を振り返っていきます。今回は、重田倫明2軍広報が登場です。広報1年目の28歳が見たドラフト1位ルーキー・前田悠伍投手の成長と進化。共に経験を重ねる中で「あれだけ失敗と、次に向けてを繰り返してやっている選手は、今まで初めて見た」と感じた瞬間があったそうです。誰よりも近くで見てきた重田広報が、黄金ルーキーに驚かされたことを明かしました。
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移りゆく季節と同じように、変化を続けてきた1年目になった。今季、選手から転身した重田広報は多くの場面で前田悠との時間を過ごしてきた。18歳で入団してきた左腕は、U-15やU-18の日本代表に選出されるなど、常に世代の中心をひた走り、多くの期待を背負ってきた。そんな前田悠は1年目にして、1軍の舞台を経験するまでに成長した。プロ初登板となった10月1日のオリックス戦では打ち込まれる場面もあったが、そこに至るまでに見せ続けてきた変化とはどのようなものだったのか。
「あれだけ失敗と、次に向けてを繰り返してやっている選手は、今まで初めて見たかもしれないです。これまでに築き上げたものがあるんだろうとは思うんですけど、トライアンドエラーを何度も繰り返していました」。重田広報が驚かされた、前田悠の内面に迫る――。
失敗を恐れない強さも前田悠の魅力の1つだ。「些細なことですけど、『なんでこういうことしてんの?』とか、『なんでこういうもの食べてんの?』とか話を聞きますよね。その時に『今はこうなんですよ』とか言っていた割には、何か挫折があった後に、ふと見ると生活自体が違うんです。やっていたことをやらなくなったことが色々と多くて。『あれはダメでした。重田さんに話していた時のあれは違いましたね』みたいな会話があります」と重田広報は語る。取り組んでいたことを“辞める”タイミングは、失敗を経験した後に多く見られたという。
その中でも印象的な出来事があった。2軍デビューを果たした4月20日の広島戦(タマスタ筑後)。7回に2番手として登板し、1回を2安打2失点(自責0)の内容だった。「あの試合は、悠伍の中で全く納得がいかなかったんだと思います。そのタイミングが一番変化したと感じた時でした」。自身のエラーもあり、悔しさをにじませた試合。その後、守備練習を増やす姿もあったが、目に見えて変化したのはそこだけではなかった。
「それまでは偏食ではないんですけど、偏っていたんですよ。タンパク質も全然少なくて、鶏肉を2つしか食べないこともあったりで、全然食べてないじゃんと思っていました。だけど気づいたら、炭水化物を2セットに、タンパク質もたくさん摂るようになっていました。元々サラダは好きだから、よく食べていたんですけど、量が2倍ぐらいになっていました。それを見た時に『あれ? どうしたの』って聞いたら、『やっぱこれっす』って。特に変化があったのはその試合からでしたね」
明らかに増えた食事の量。失敗と悔しさを味わったことで、周囲がわかるほどの違いを見せた。体も少しづつ大きくなり、たくましさが増していったことも、こうした取り組みがあってのことだった。
その後も、少しでも納得いかないことがあると、すぐに新たなことに取り組んだ。「全部のバランスが上昇したというか。食事もそうだし、トレーニングも。『ウエートはあまりしないタイプなんです』みたいなことを言っていたのに、急に『重田さん、ベンチプレス何キロ上がりましたよ』って言ってきて。『ウエートしないタイプじゃなかったの?』って言う話をしたこともありました。『僕は変えます』とか言わずに、自然に変わっているんです。小さな挫折だろうが失敗だろうが、成功に結びつけることを絶対にイメージしていますね」。
変化を恐れずに、新しいことへの挑戦を続ける。そんなシーンを幾度と目にするたびに、重田広報は驚かされてきた。
灼熱のような筑後の夏を乗り越え、こんがりと日焼けした19歳左腕は、新たな成長を確信したような表情で重田広報に思いを伝えてくるという。「めっちゃ満面の笑みです。『全然言ってることとやってること違うじゃん』って言われることを恐れず、『あの時の自分はダメでしたね』と言えるタイプ。これまで見てきて、そういうことが多くあります。すごく頑固なやつなのかなと思ったんですけど、あんなに柔軟性がある選手はなかなかいないんじゃないかなって僕は思いました」。
そんな前田悠の1軍デビューを、重田広報はリアルタイムで見ていなかったという。「前田純の方が気になっていました。それを悠伍に言ったら、『なんで見てくれないんすか』って言われましたけど。(結果は)どっちに転がってもいいと思っていたので、あまり気にすることなくでした」。これまでの前田悠の取り組みや、試行錯誤を繰り返してきた姿勢を知っているからこそ、心配する必要がなかった。
1年目のシーズンはあっという間に過ぎ、涼しさを感じる頃になった。前田悠がシーズンの最終盤で味わった“ほろ苦い”思いを晴らすのは、来年以降になりそうだ。良くも悪くも、今は経験を重ねる時。「前田悠伍の野球人生を作ってほしいというか、自分に集中して2年目を迎えてほしいなと思います。悠伍は絶対エースにならなきゃいけないので」。一歩ずつでいい――。そんな思いが伝わる表情と、柔らかな口調で重田広報は期待を込めた。
(飯田航平 / Kohei Iida)