一芸こそプロ「杉山のボールを見ると『すげえな』って思うじゃないですか」
リーグ優勝の特別企画としてお届けする三笠杉彦取締役GMの単独インタビュー。最終回のテーマは「競争哲学」について。「目指せ世界一」をスローガンに掲げるホークス。球団がソフトバンクとなった2005年以降、20年でそれぞれ7度のリーグ優勝、日本一に輝くなど、その歩みには一定の成果が見られる。球団の編成部門でトップに立つ三笠GMは「僕はプロ野球選手だったわけでもないですし、実体験なんて……」と前置きしつつ、自らの競争哲学について口を開いた。
「僕はラグビーをやっていて、県立高の普通のチームだったんですけど。いつもイメージするのは、大阪桐蔭高をはじめ、強豪校の野球部がどういう感じなのかってことです。選手がたくさんいて、毎日が競争の日々というのが強豪校。練習の時から競争しているじゃないですか。そういいった面でいえば、成長する環境がプリインストールされているところが、本当の強いチームなのかなと」
三笠GMは釜石南高でラグビーを始め、東大ではラグビー部の監督も経験した。チーム強化のアイデアを得るのは、プロ野球の世界だけにとどまらないと強調する。
「まだ実現できていないんですけど、強豪の高校って自分たちの学校に呼んで試合をするじゃないですか。あれも有利なんですよ。移動するのは大変なので。3軍とかでも、強いチームと試合をしようと思うと、まだまだ遠征が多いんです。我々が目指しているのは、なるべく筑後に来てもらう。それは相手さんにもメリットがないとできないんですけど。来てもらえらば、我々がやっている環境も見てもらえるし、選手も移動の時間を使ってトレーニングをするか、寝るか、食事をたくさん摂るか、とかもできる。そういうイメージでやっています」
1974年生まれで、現在50歳の三笠GM。「僕は団塊ジュニア世代ですから。近年で一番人が多い時期に育った。そういう意味でいうと、競争といえば、少数精鋭というよりは競争の中で切磋琢磨する環境だった」と振り返りつつ、現代の競争環境について独自の考えを語った。
「今の日本社会は若い人が減って、少数精鋭の中でエリートを育てる風潮があると思うんですけど。そうじゃなくて、たくさんの人の中で自分たちで成長しあって、自分たちでチームを作っていく。上の人がどうとか、組織がどうこうではなく、選手がいるからこそチームができる。それは単に僕の性に合っているんですよ」。12球団最多となる50人を超える育成選手を保有するメリットを明かした。
話題はホークスに移る。「監督やコーチ、会社の人じゃなくて、選手が自分たちでチームを作る。だから周東(佑京)くん、栗原(陵矢)くんのチームを作ればいいと思うんです。自ずとチームが作られれば、『柳田(悠岐)さんが言っていたこと』とか、『近藤(健介)さんが言っていたこと』がおのずと引き継がれていく。そういうチームである方が魅力的じゃないかと思いますし、若い人を惹きつけると思います」。球団が脈々と受け継いできた伝統。それはあくまで選手がチームを作ることで残っていくものだという。
三笠GMの目線は野球だけでなく、一見スポーツから離れた分野にも向いている。「韓流アイドルの芸能事務所に行って、どういうオーディションをして選んでいるのかとか。そういうことに興味はありますね」。様々な競争の世界から、ホークスの強化策を練る。これも編成部門トップの仕事だという。
「プロ野球と似ている部分はありますよ。僕は昔から吉本興業の人と話すんですけど、(芸人養成所の)NSCに行っている人もいるじゃないですか。『育成ってどうしているんですか』って聞きます。そうしたら『僕らは芸人に金を払うんじゃなくて、もらって育成をしているんだ』って言いますね。なんばグランド花月でやる時の最初のギャラは150円。あの人たちは電車に乗ってくると、そもそも赤字なんです。そういう話を聞くと、僕らがやっている競争なんかよりも、レベルが違うかもしれないですね」
根本にあるのは、プロ野球も1つの興行という考えだ。「本当に、言うなら芸事というか、(選手は)パフォーマーですから。そういう場を作ることを非常に大事にしています。杉山(一樹投手)とかのボールを見ると、『すげえな』って思うじゃないですか。ああいう選手が面白いというのが僕の持論で。品行方正で、話し方もちゃんとしている選手もいますけど。速い球とか、速いスイング、遠くに飛ばすとか、そういうことが見にくるお客さんを純粋に楽しませると思います」
世界中のどの球団よりも個性的で、強いチームを作ることこそがファンをひきつける。三笠GMの哲学が実現した時、ホークスは最高に魅力的な球団となる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)