愛妻に打ち明けた「寝られない」 壮絶だった“配球の夢”…海野隆司が知った1軍の重圧

ソフトバンク・海野隆司【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・海野隆司【写真:荒川祐史】

今シーズンはキャリアハイの試合数…2022年は47試合も「全然これは違います」

 鷹フルでは若手からベテランにまで1人1人にスポットを当て、リーグ優勝した2024年を振り返っていきます。2度目の登場となった海野隆司捕手が明かしたのは、壮絶だった「配球の夢」。1軍で自らの居場所を作るために繰り返してきた徹底的な準備は、眠りにまで影響を与えていました。家族にまでかけてしまった“心配”……。重圧と戦った1年を詳細に語ってくれました。

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 5年目の今季は51試合に出場し、打率.173、2本塁打、10打点をマーク。多くの部門でキャリアハイの数字を残した。47試合に出場した2022年と比較をしても、「全然違います。(途中出場と)スタメンで出るのは違いますので。ただの数字で言えば、そう(似ている)かもしれないですけど」と言い切る。2022年は甲斐拓也捕手が125試合で先発マスクを被っただけに、途中出場がほとんどだった。数字以上の濃さが、優勝した今季には確かにあった。

 捕手は目の前の1球に限らず、翌日の試合、次のカード、もっと言えばシーズンを見通して配球を組み立てている。海野は大関友久投手や、大津亮介投手とバッテリーを組むことが多かった。先発マスクの機会が増えたことで生活リズムにも変化が生まれた。「(これまでも)手を抜いているわけではなかったですけど、スタメンで出るのと途中から出るのでは、映像の見方も違います。先発(マスク)でどうやって抑えようかというのは、考えて見るようにはなりました」。新たな経験だった。

 7月28日のオリックス戦、チームは4-1で勝利した。試合後、小久保裕紀監督は海野についてこう明かしていた。「配球が夢にまで出てくると言っていました。それは当たり前なんですよ。そこを乗り越えていかないといけないので」。大卒5年目で、これまでにない経験を重ねている中で、プロの“怖さ”は夢にまで影響していた。毎日、試合前練習中に選手1人1人と必ず言葉を交わす指揮官。海野も「『どうや?』みたいな話をしている時に、夢の話をしました」と語る。

 サイン1つで、捕手は試合を動かすことができる。何度も映像を見るのも、自分が試合に出た時の“不安”を潰しておくためだ。「特に大事な作業じゃないですかね。キャッチャーとして(経験を積んでいくと)、やっぱり怖いです。打たれる怖さとか、後ろにそらしちゃいけないとかどうしても考えてしまう。それは1軍の試合に出る上で逃げられないので。それは仕方ないです」。1軍にしかない重圧を背負い、1人のプロ野球選手として成長したシーズンだった。

「夢を見たのは、1回や2回なんかじゃないですよ。不安との戦いなので。ああなったらどうしよう、とか。いろいろ考えちゃったら、夢に出てきたりとか、なかなか寝られないとか。試合でミスした次の日とかは特に見ちゃいますね。試合の前の日もそうですけど」

 愛妻にも心配をかけてしまった。「自分からずっと『寝られない』って言っているので。心配されますけどね、もちろん」。野球の夢から目が覚めてしまう姿も、なかなか寝付けずに何度も寝返りをするところも、一番近くで見てくれている存在だ。「普通に話をしてくれたりとか。そんなに野球の話はしないんですけどね」と言うが、気を遣わせてしまった分だけ、家族孝行したい気持ちはどんどん強くなった。チームの欠かせない存在になることが、“恩返し”への一番の近道だ。

「チームの勝ち負けとかそういうプレッシャーではないというか。それこそクビを切られるとかもあるので。チームの勝ち負けももちろんなんですけど、それを考えられるほどの実績は積んでいないので。その中でも、ミスとかをしないようにすればおのずと勝ちに繋がるかなと思いながらやってきたシーズンでした」

 居場所を作るために、必死に戦った。「シンプルに1軍にずっといられたので、やっとプロ野球選手をやっている感じがします」。5年目でたくさんの経験を手にした。自分だけの夢を叶えるために、もっともっと成長していきたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)