昨季の「1」から今季は「8」に…支配下昇格が相次いだ舞台裏
リーグ優勝の特別企画としてお届けする三笠杉彦取締役GMの単独インタビュー。第3回のテーマは「健全な競争環境」について。今年2月、支配下登録選手枠の上限から8人少ない62人でキャンプインした。結果、今季は実に8選手が育成から支配下登録を勝ち取る形となった。昨季は1人のみだった「支配下昇格」。三笠GMが明かしたのは、大きな方針転換の背景にあった“反省”だった――。
「今年から4軍制を導入して、いい選手もたくさんいて。育成選手が50人以上もいるのに、去年は(育成からの支配下登録が)木村光くん1人だけでしたし。こんな状態ですと、組織として正しい競争環境ではない、健全ではないという面があると思いました」。球団の編成部門でトップに立つ三笠GMが口にしたのは、率直な反省の思いだった。
今季、チーム内で起きた選手の動きは以下の通りだ。
3月19日 【支配下登録】 緒方理貢外野手、仲田慶介内野手、川村友斗外野手
6月 1日 【支配下登録】 佐藤直樹外野手
7月 5日 【西武との交換トレード】 野村大樹内野手⇔齊藤大将投手
7月24日 【支配下登録】 中村亮太投手、三浦瑞樹投手、前田純投手、石塚綜一郎捕手
7月30日 【外国人選手獲得】 ジーター・ダウンズ内野手
4年ぶりのリーグ優勝を至上命令に掲げ、迎えた2024年。山川穂高内野手、アダム・ウォーカー外野手を新戦力として迎え入れた一方、支配下登録選手枠を「8」空けた状態でのスタートとなった。昨オフは森唯斗投手、嘉弥真新也投手、上林誠知外野手、高橋純平投手ら、チームの主力として活躍してきた選手に戦力外を通告。“大ナタ”をふるったことで、枠に空きを作った経緯があった。
「50人ほどの育成選手を抱えている中で、支配下の選手よりも力があるのに、契約的に1軍で出場できないという“競争環境のねじれ”みたいな状況がある。それは解消すべきで、その代わりに申し訳ないですけど、支配下で入ってくれた選手を“整理”して枠を空けることになったということ。いわゆる1軍の戦力を犠牲にしてまで枠を空ける、といった発想ではないです」
枠が8つ空いたのは、あくまで戦力整理の結果だと強調する三笠GMだが、その判断の悩ましさも口にした。「大事にしたいのは、実力的には支配下なんだけどっていう(育成)選手が、あまり多くならないように。ただし、これは難しくて、高卒で支配下として取った選手と、大学や他球団から来た育成選手をただ比べたら、それは育成の方が力が上となる。だけど、(支配下か育成かの判断は)将来的なポテンシャルとかも含めての総合的なものになるので」。現時点での実力と将来性を天秤に掛ける作業だ。
昨年の反省を踏まえた取り組みは、結果的に吉と出たと言える。「枠が増えたことで『よし、やってやる』という気持ちに育成の選手もなるし。支配下の選手も、支配下だから(試合に)使われるのではない、という話です」。選手間の競争意識を高めることが、パフォーマンス向上につながった。
好循環はそれだけではなかったという。「コーディネーターやコーチからしても、シーズンの最初から(支配下に)上げられるのは3人しかいませんよというのと、8枠もあるからというのとでは違う。指導する側も『チャンスがあるから』ということで、組織として活性化しているというのはあったんじゃないかなと思います」と、分析する。
一方で、常に数多くのチャンスが与えられるとは限らない。「今年は(枠を)8つ空けて62人にしましたけど、今後も62にするのかと言ったら、それは1人1人の選手を見ないといけない。今年はいろんなことを考えての結果。我々としては支配下を整理するのは辛い作業でもあるので。(支配下に)いい選手はたくさんいるんですけど、どうしても(整理せざるを得ない)……、というのが2023年から2024年にかけてでした。来年も62かと言われたら、それは当然、育成の有望株がどれだけいるかというところです」。シビアな世界であることは変わらない。
「2010年代に導入した3軍制が成功した。それこそ(2010年育成ドラフトで入団した)千賀(滉大投手)、甲斐(拓也捕手)、牧原大成(内野手)の延長として拡大3軍制をやったり、4軍も始めたということでしたけど。3軍の延長としての4軍では、あまり上手くいかないというか。4軍については、メジャーリーグのチームがやっているようなことを勉強しなくちゃいけない」
大量の育成選手を抱えるホークスならではの悩みに、まだ答えは見つかっていない。それでも今季、支配下枠を「8」空けたことによる好循環は今後に向けての大きなヒントとなったに違いない。「目指せ世界一」を掲げる球団の行く末には、どのような景色が待っているのか。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)