周東佑京から突然“ムチャ振り”…柳町達が明かす舞台裏 頷くだけだった無機質な「うん」

ビールかけ開始の挨拶を任されたソフトバンク・周東佑京【写真:小池義弘】
ビールかけ開始の挨拶を任されたソフトバンク・周東佑京【写真:小池義弘】

「さっき挨拶いっぱいしたので、柳町選手にお願いしたいと思います!」

「やばい、何しゃべろうとしたか忘れた」。そんなことを口に出してしまうところがまた、選手会長らしかった。

 ソフトバンクは23日のオリックス戦(京セラドーム)に9-4で勝利し、4年ぶりのリーグ優勝に輝いた。球場でのセレモニーを終えると、チームは宿舎に移動。共同記者会見の後、秋の“風物詩”とも言えるビールかけが行われた。マイクの前に立ち、開始の挨拶を任されたのは周東佑京内野手だった。思わず内容が“飛んだ”スピーチ。本当は、どんなことを伝えようとしていたのか。柳町達外野手への“ムチャ振り”の舞台裏にも迫る。

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 優勝したチームの恒例行事でもあるビールかけ。孫正義オーナー、小久保裕紀監督が短く挨拶を済ませると、選手会長の周東に出番が回ってきた。「皆さん、お疲れ様でした。今日はとても最高な日になりました。ここまで戦ってきたチームメート、支えていただいた監督、コーチ、スタッフの皆さま、心から感謝いたします」。ここまでは順調だったが「やばい、何しゃべろうとしたか忘れた」と、思わず言ってしまった。

 22日の楽天戦(みずほPayPayドーム)に勝利して、優勝へのマジックナンバーは「1」となった。ビールかけでの挨拶の内容は「楽天との試合が終わってからですね、移動する前くらいから考え始めました」と言う。13時開始の一戦を白星で飾り、チームは大阪入り。新幹線に乗った時にはもう、ある程度の構想は温めていたそうだ。

 リーグ優勝から数日が経ち、あの瞬間について聞いてみた。「なんでそうなったのか、自分でもわからないです。そういうの(喜びや興奮という感情)じゃないですかね?」と頷きながら振り返る。本当はどんなことを伝えたかったのか。それについても「全然覚えてないです。考えていなかったですね」と、周東をたかぶらせるだけの空気感がビールかけ会場にはあった。

「忘れた」という言葉の後には、「僕らはすごく、強かったと思います! 何と言おうと、僕らは優勝するチームだと思っています!」と続けたのだから、これが2024年を戦った周東の偽りない思いなのだろう。

 今季から選手会長に就任して、人前で発言する機会が増えた。小久保監督の姿を見て、「勉強というか、言葉選びが上手だなとずっと思っていました。そういうのはすごく参考になります」と、自分なりに学ぼうとしてきたシーズンだ。今宮健太内野手や中村晃外野手と、選手会長を務めてきた先輩たちも言葉の1つ1つに力がある。周東も「僕は慣れているつもりですけど、それは周りが判断することじゃないですかね」と話した。

 キャリアを振り返れば、言葉の力を感じた経験は何度もある。2022年10月2日のロッテ戦(ZOZOマリン)は、勝てばリーグ優勝が決まるという状況。当時キャプテンだった柳田悠岐外野手は「ダメやったら全部俺のせいにしろ!」と責任を背負った。昨年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での米国との決勝戦。大谷翔平投手は「憧れるのはやめましょう」とナインを鼓舞した。どちらも“当事者”として見届けていた周東は「僕はそこまでトップの選手じゃないですから」というが、人前で発言する機会は自分を何倍にも成長させてくれたはずだ。

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 結びの挨拶で周東は「さっきいっぱいしたので、柳町選手にお願いしたいと思います!」とバトンタッチ。慶大から入団して5年目のシーズンを終えた27歳も、「ほんとムチャ振りなんで。こういう場で挨拶をするのは苦手で、頭真っ白です」と本心を隠さなかった。周東から託されたのはビールかけの途中だったという。柳町いわく、こんなやり取りだったそうだ。

「お前、締めの挨拶、言って」

「え、マジですか? マジですか?」

「うん」

 壇上での発言を振り返った柳町は「いや、本当に適当でした。ただ思いついた言葉だけを言いました」と、“真っ白な頭”からとにかく絞り出したような内容だった。周東からヤジも飛んでくる中でも、「リーグ優勝できたんですけど、まだこれからCS、日本シリーズとあるので、皆さんでもう1回一丸になって、頑張って日本一になりましょう!」と締めくくった。これからまだ続く戦いにも目を向けて、チームを鼓舞するような言葉となった。

 ビールかけの挨拶と言えば“優勝したチームの選手会長”だけが託される大仕事。「今日はしこたま楽しんで、騒いで! 明日、みんな二日酔いで帰りましょう!」と号令をかける周東の笑顔は、最高だった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)