リーグ優勝の特別企画としてお届けする三笠杉彦取締役GMの単独インタビュー。第2回のテーマは「常勝球団が払った“代償”」。2017年から2020年まで4年連続日本一を成し遂げたホークス。球界では巨人の「V9」以来となる偉業だった。一方で2021年以降の風向きはがらりと変わり、昨年まで3年連続でオリックスに覇権を握られる形となった。“目指せ世界一”のスローガンを掲げるフロントは、この3年間をどう捉えていたのか。三笠GMが語った本心とは――。
「我々にとっては必要な3年間だったと。今はそう思っています」
三笠GMが口にした言葉は、決して負け惜しみでも強がりでもなかった。「オリックスさんがいいチームを作った。それはとても素晴らしいことなので。まさにフロントと監督が一体になって、強いチームを作っていたということです」。頂点に届かなかった3年間。ライバルチームへの敬意は本心から出たものだ。
球団の主役はあくまで現場だ。4年ぶりに手にした“悲願”にも、その思いは変わらなかった。「フロントはあくまで戦力や環境を整えるのが仕事で、実際に戦うのは選手。その中で小久保(裕紀)監督を中心に、倉野(信次)コーチ、奈良原(浩)ヘッドが日々の勝ち負けに一喜一憂して戦い方を変えるのではなく、ブレずに戦ってくれたことが今の結果に繋がっていると思います」と、首脳陣の手腕を称えた。
頂点をつかんだ背景には、過去の反省があったという。「この3年間、我々にも足りないところがあったのは間違いない。2017年から2020年まで、その間にはCSからの下克上もありましたけど、4年連続で日本一になった。その時の成功体験の延長で、チーム作りを進めていくみたいなところにどうしてもなってしまっていたと思っています」。
物事がうまく進んでいるのであれば、特段手を加えることはない。一見、正しいようにも思える思考も、プロ野球の世界では“足かせ”となる場合もある。
「いろんな組織にあることですけど、『成功体験が仇になる』みたいな話です。どうしても、そこに引っ張られたところがあった。新型コロナ(の感染拡大)もあったし、いろんな方針転換がうまくできなかったのが、2021年からの3年間だったのかなと」
フロントが選んだのは、勇気が必要な決断だった。「オリックスさんに連続で優勝を与えてしまったこともあったので、逆に上手くいっていたことは一旦忘れるくらいに、新しいものを作る気持ちで取り組んできました。そういう意味では、その間に一生懸命やってくれた選手にとっては申し訳ないですけど、我々にとっては必要な3年間だったと。今はそう思っています」。
真っ先に取り組んだのは、痛みを伴う“血の入れ替え”だった。「フロントとしては、まずは選手の編成ですよね。4年間日本一になった選手を中心に戦っていくっていうのを、ちょっとずつ(見直して)。世代交代と言いながらも、『できていない』というコメントがここ2、3年前は多かったので」。
今季のホークスは中堅、ベテランの主力クラスがきっちりを仕事をこなしつつ、若手の力がチームの強い追い風となった。「逆に言うと、世代交代という面では変わったというよりも変わらざるを得なかった。そんなことを言っていても仕方ないということで新しい選手も使いながら、補強もしながらというところです」。まさに今と未来をともに見据えたチーム作りだった。
「僕も今年の始めに言いましたけど、今まで成功してきたことを続けるんじゃなくて、この先10年、20年やらないといけないことをやる年にしたいと思っていました」。失った3年間は取り戻せなくても、未来につなぐことはできる。「目指せ世界一」の再スタートを切るには、必要な時間だった。