「山川補強」は成功だったのか…三笠GMを単独インタビュー
4年ぶりにパ・リーグの頂点に立ったソフトバンク。リーグ優勝の特別企画として三笠杉彦取締役GMの単独インタビューを複数回にわたって掲載する。第1回のテーマは「山川穂高内野手の補強」について。世間の強い逆風を押し切って獲得を決めたホークスフロント。その“費用対効果”をどう捉えているのか。三笠GMは「ありのままの評価」を口にした。
ホークスのチーム総得点、本塁打数は12球団トップと、優勝の原動力となった強力打線の中でも山川の存在は特別だった。ここまで全試合で4番に座り、本塁打、打点のタイトル2冠はほぼ決定的。小久保裕紀監督が打線で最も重要視する4番打者として、さすがの力を示した。
昨年12月に行われた山川の入団会見。三笠GMは獲得経緯についてこう説明していた。「(不祥事については)深く、しっかりと反省をしていて。『マイナスからのスタート』との自覚もした上で、本人の野球に懸ける気持ち、ホークスで野球をして活躍をしたいという気持ちを確認しています。われわれとしては山川選手に来ていただいて、活躍する機会を球団として持たせていただいて。その上で素晴らしいプレーで、ファンの方に応えていくということです」。
フロントにとって、「山川獲得」は成功だったのか。
「僕はそう思っています。よくやってくれたと思っていますよ」。世間の逆風があった中で、獲得に踏み切ったことは球団としてプラスに働いたか――。その問いに対する三笠GMの答えは端的だったものの、実に明確だった。
昨オフに行った補強のメーンは山川にアダム・ウォーカー外野手。打線強化が目的のように思えるが、三笠GMの考えは違った。
「去年の戦いからいうと、まず(補強ポイント)はピッチャーのところ。投手と野手の貢献度から見ても、去年の野手はリーグナンバーワンでしたけど、投手はリーグ下位でした。そこで(リバン)モイネロ投手なり、大津(亮介)投手の配置転換もそうですし、投手も積極的にドラフトで補強したこともそうです。1軍から4軍までトータルで指導してくれる倉野(信次)投手コーチもいた。そういうところが一番の課題と思っていた」
ではなぜ、「大物野手」を獲得したのか。その狙いは明らかだった。「去年からの改善点という意味で言うと、投手陣の方が大きなところかなと。その上で野手をさらに変えていく。(難しい)やりくりをする投手陣を支えられるという意味で、野手をさらに強くしていくという考えです」。野手に比べて経験の浅い若手が多い投手陣を、強力打線が「打って育てる」。そのサイクルが上手くはまった結果が4年ぶりのリーグ優勝だった。
実際に山川が残した成績をどう捉えているのか。三笠GMは言葉を選びながら、評価を明かした。「FAで来てもらっていますので。実績のあるバッターですし、どうでしょうね……。『このくらいは活躍してくれると思った』というのも言いづらいですけど。そこは評価がなかなか難しいと思います」。フロントが山川の残す“数字”を想像できなかった理由もあった。
「実績のあるバッターでしたけど、(昨年は不祥事の影響で)1年間ほとんど実戦をやっていないところもあったので。『絶対にこのくらいはやると思っていたか』と言われると、それは思っていなかったというか。僕らができることは野球に取り組む環境を作ってあげること。あとは本人がしっかりと取り組んでくれたということです」
ほぼ1年間のブランクがありながらも、結果を残すのは一流打者の証だ。「今年は近藤くん、山川くんを中心に、野手のチームだと思います。山川くんの存在は他の選手の活躍にもいい影響を与えたと思います」。
山川が若手野手に与える好影響は、前述の入団会見で三笠GMも語っていた。「打撃の技術論という面でも、日本トップレベルの考えを持っていると評価しているので。若手ともしっかり交流していただいて、大きな影響があるのではないかと。山川選手の技術、考え方を吸収することによって、ホークスの若手がさらに成長する。そういうプラス面も考えられるのではないかと、総合的に考えて獲得という判断をさせていただいた」。
今季は試合前練習中のグラウンド上でも、試合中のベンチ内でも山川の言葉に耳を傾ける若手の姿はよく見られた。「山川獲得」がもたらす“真の恩恵”は数年後、ホークス野手陣の顔ぶれから判断できるのかもしれない。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)