川村友斗は“ザ・いい人”…劇勝の裏で見せた優しさ 代打出された正木智也にかけた言葉

プロ初となる2ランを放ったソフトバンク・川村友斗【写真:小池義弘】
プロ初となる2ランを放ったソフトバンク・川村友斗【写真:小池義弘】

昨年までチームメートだった中日・上林から授かったバットで初HR

「まじリスペクトっす」。“ザ・いい人”と呼ばれる川村友斗外野手らしい言動だった。チームメートが劇的勝利に酔いしれる中、真っ先に駆け寄った先は1999年生まれの同学年、正木智也外野手のもとだった。

 ソフトバンクは22日の楽天戦(みずほPayPayドーム)に11-5で勝利した。「9番・右翼」で先発起用された川村が、2回1死一塁で右翼席にプロ初本塁打となる1号2ランを放った。チームにこれ以上ない勢いを与えたヒーローが明かしたのは、盟友への「まじリスペクトっす」との言葉。正木との関係性が表れたシーンが前夜にあった。

 前夜の21日。1点を追う9回2死一、二塁で代打の柳町達外野手が左越えに逆転の2点適時打を放ち、チームは劇的なサヨナラ勝ちを収めた。ゲームセットまであとストライク1つという状況から勝利を導いたヒーロー。一方、代打を出されたのが正木だった。試合終了後に球場内が暗転し、ナインが整列する。正木のもとへ真っ先に向かい、その肩をもんだ川村は、その時のやり取りを明かした。

「特に意味はないですけどね。『俺でも打てたし!』って言っていました」

 2軍監督時代から川村をよく知る小久保裕紀監督から「ザ・いい人」と表現される人柄。その優しさが垣間見えたシーンだった。正木はヘルメットを被り、エルボーガードを着用したままサヨナラの輪に加わった。柳町は慶大の先輩とはいえ、プロ野球選手なら自分のバットで試合を決めたかったはずだ。川村とのやり取りの中では、いつもと同じ爽やかな笑顔が見られた。

 川村は1999年8月生まれで、2021年育成ドラフト2位で仙台大からホークスに入団。正木は同年のドラフト2位で慶大から入団と、2人は同学年&同期入団という間柄だ。少しずつチーム内でも増えてきた“1999年組”。川村も「仲田(慶介内野手)とかリッチー(リチャード内野手)が(1軍に)いた時もそうですけど、同級生の野手って少なかったので。そういった面では心強いですよ。お互いにいろんな部分を言い合っていますし、他愛もない話もします。ライバルではあるんですけど、刺激を受けながらです」と笑顔で話す。

 3月19日に支配下登録を勝ち取った川村。6月21日に正木が1軍昇格すると、同じ外野手ということもあって関係性はどんどん深くなっていった。「正木は肝が据わっていますね。メンタル強いです。打てなかったら『わぁ!』とか言うんですけど。一緒にいることも多くて、(アウトになった時も)『惜しかったくね?』みたいな。切り替えがすごくできている選手だと思います」と言う。

 7月以降は正木が右翼に定着。川村は守備固めがメインとなり、ベンチから盟友の姿を見守ることが増えた。「(シーズン)後半に試合に出ている中で、僕もわからないことだとか、いろんな経験をしたと思うので。まじリスペクトっす」と語っていたが、今度は自分が待望のプロ初アーチを放った。この日の試合後も、「正木がずっと試合に出ていて、仲もいいので。打ったら僕も嬉しいですし、刺激を受けながらできています」と言うのだから、正木もきっと喜んでくれているはずだ。

 1号を放ったバットは、2軍の名古屋遠征に行った時に、昨年までチームメートだった中日・上林から授かったものだった。「たまたま話す機会があったので。『1本ください』とお願いしたんですけど、振ってみたらすごく感覚がよかったんです。1本しかないので、折れないようにしたいと思います」。3日前の19日には試合後の打撃練習では栗原陵矢内野手から「体全体で振る」と助言をもらい、「その感じでやってみたら(打球が)えぐかった」と変化を実感した。周囲の人たちも川村が“ザ・いい人”だから、手を差し伸べてくれる。

 優勝へのマジックナンバーはついに「1」となった。川村はヒーローインタビューで「残り少ないシーズンですが、僕たちは勝つためにやっていくので、応援よろしくお願いします」と、高らかに宣言した。若手を積極的に起用してきた“小久保ホークス”の悲願が、もうすぐ叶う。

(竹村岳 / Gaku Takemura)