和田毅に助言求める若手の列 43歳があえて口にした「お金の話」…本当に伝えたいこと

筑後のファーム施設で調整を続けるソフトバンク・和田毅(左)【写真:長濱幸治】
筑後のファーム施設で調整を続けるソフトバンク・和田毅(左)【写真:長濱幸治】

昨オフには育成選手に苦言…和田毅が技術と同じく大事にしている“心構え”

 1軍での最終登板から2か月以上もの期間、和田毅投手は筑後のファーム施設で調整を続けている。日米通算165勝を挙げている43歳のベテラン左腕のもとには、多くの若手がアドバイスを求める姿が頻繁に見られる。

「そこは嬉しい部分もありますよ。話しかけやすいように意識して振る舞っているわけじゃないですけど。こちらとしても聞かれたら話しますし。さすがに試合で打たれた後に話を聞かれたら『空気読んでよー』とは思うけど、それ以外は本当に、いつ聞かれても大丈夫なので。せっかく僕もこっちにいるので。俺のところに聞きにこいとかじゃ全くないけど、そうやって聞きに来てくれるのはうれしいことですよ」

 笑顔を交え、身振り手振りで自身の経験を伝える和田と、真剣な表情で話を聞く若手。その光景はほほえましくもあるが、左腕が伝えたいことはシビアな「現実」だという。「プロ野球選手は個人事業主、社長なんです」――。その真意とは。

「社長として、自分がどうやって稼ぐか。どういう選手になりたいというのが決まったら、そこには何が必要か。そのためには僕が言ったことでも合わなければスパッと切ってもらっていいんですよ。そこは『俺の言う通りやれ』なんて、これっぽっちも思ってないので。金を稼ぐために自分で自分の道を選ばなきゃいけないんですよね」

 プロ野球の世界で22年間、「飯を食っている」ベテラン左腕の言葉は実にシンプルだ。結果を出せば年俸は上がり、成績を残せなければ戦力外になる。だからこそ、選手は必死に練習する。単純ではあるが、それに日々24時間、打ちこむことの難しさもある。

ソフトバンク・和田毅(左)【写真:長濱幸治】
ソフトバンク・和田毅(左)【写真:長濱幸治】

「例えば部活で『みんなこうやりなさい』って、無理やり(練習を)やらされるなら話は別ですけど。自分がやりたいことを仕事にしようと選んだ道なので。そこはもう、いいも悪いも選択するのは自分自身。だからこそ勉強も必要だし、どうすればいいのかは自分で選択しなくちゃいけないので」

 一見突き放したかのような印象も与えるが、それこそがプロの世界で生き残るためのすべだという。和田自身も「松坂世代」の一員として、高校時代から光り輝く同学年を見つめ、自身の平凡さを痛感した。だからこそ、誰よりも練習を重ねてきた自負がある。

「誰も助けてはくれないので。手助けという面ではコーチやトレーナーさんといった方がたくさんいるんですけど、結果を出すのは自分なので。だからこそ、しっかりと自分で勉強して、何が必要なのかを認識して。色んな人に聞いて、自分に合うものを選んでいけばいい」

 左腕が強調する「勉強」こそ、43歳を迎えても現役を続けられている秘訣だ。昨オフには脳科学を学び、自主トレにも導入した。「これまでも色んな事をやってみて、まだ鍛えられるところはないかと考えていたら、脳みそがあるじゃないかと。やってみてもすごく面白かったので」。旺盛な探求心も、全ては自らのパフォーマンスを向上させたいという思いから生まれている。

「しっかりと結果を出せば給料が上がっていく。じゃあ、どうやったら上がるのかと言えば、自分を高めていくしかないし、結果を出すしかない。そのためには自分の知らない知識を得るために勉強しないといけないですし。それは周りもみんなやっていますし、自分だって今でもそうですよ。どうやったら明日はもっとよりよくなれるのかって。その繰り返しなんで。要はどうしたら給料を稼げるかってことですね。それは一般社会でも変わらないことだと思います」

 一般的には口にしずらい「お金の話」でも、和田は遠慮することなく口にする。それは、才能ある若手の成長を願う“本心”からだ。昨オフの契約更改の場では「育成の選手はプロ野球選手ではないと自分は思っている。疑問に思うことはたくさんあります。本当に、贅沢だなと思います」とあえて苦言を呈したこともある。技術と同じく大事な心構え。それが若手に伝わってほしいとベテラン左腕は願っている。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)