声を掛けることは「基本ない」という東浜が後輩右腕に言葉を伝えたわけ
2か月以上も1軍マウンドから遠ざかっている東浜巨投手。悔しさ、苛立ち、もどかしさ……。様々な感情を抱えながらも、ただ前だけを見据えて汗を流す日々だ。2軍生活が続く中、日頃からストイックに自身のやるべきことに取り組み、視野を広く持って過ごしている。
「自分の練習もそうですけど、後輩がやっていることもそう。いろんな人がいるので、どういうことをやっているんだろう、とか。少しでも自分のプラスになるようなことはないかなって。そういうふうに練習を見たりしています」。12年目を迎えた右腕は、後輩からも何かを学ぼうと貪欲だ。
ただ、自分から声を掛けることは多くない。「(後輩の)練習を『何してんだろう』とか思いながら見てはいます。本当に気になる人には声を掛けますけど、あんまりない。基本はないです」と言う。「自分からアドバイスっていうのもおこがましいですし、そんな立場ではない。聞かれたら答えるようにはしていますし、一緒に練習するようにはしていますけど……」。謙虚な姿勢を崩さない東浜だが、大きな壁に直面している後輩の姿には居ても立っても居られずに声をかけた。「大丈夫か?」——。右腕が歩み寄った先には大津亮介投手。言葉にしたのは自らの経験談だった。
「大津も実質的に先発1年目だし、夏場にキツくなるっていうのは全員が経験しているところなので。僕ら経験してきた人たちからすれば、やっぱりそこは自分で乗り越えなきゃいけない壁でもありますし。僕が偉そうにどうこう言うことはないですけど、自分でどういう形を作っていくかっていうのも大事。年間トータルで見たときに、すごく大事なことを感じる時期でもあるよ、っていうのは話しました。自分も年間を通して投げたっていうのはそこまで多くはないですけど、やっぱり経験したことは伝えるようにしたいなと」。
今季2年目の大津は昨季、中継ぎとして新人らしからぬ奮闘をみせてチームに貢献した。今季は先発に転向して1年目のシーズンを送っている。開幕ローテーションを勝ち取り、6月終わりまでに6勝をマーク。順調なスタートに見えたが、7月に入ってからは勝ち星が遠く、8月15日に出場選手登録から抹消されていた。
プロの世界で初めて中6日で先発ローテを守ることの難しさを感じていた大津。そんな様子を感じ取った東浜は、自身も通った道でつまずく後輩を放っておけなかったのだろう。悔しさを胸に抱きながら、2軍での1か月間をレベルアップや課題克服に取り組んでいた大津だからこそ、東浜は声を掛けた。
「見ていて、結構大変そうだなって。ちょっとでも楽になればいい。楽になればっていうか、1つでも情報として入っていればだいぶ違うかなと。まだ本人も手探りでやっていると思うし、そこは自分で勉強していく部分なんで。僕からどうだとかはないですけど、自分が経験したことっていうのは簡潔に言うようにはしてますね」と優しさが滲んだ。
先輩右腕から貴重な体験談を受けた大津の表情は明るかった。「いろいろお話はしますけど、やっぱり1軍で中6日で回る疲れとかについて『僕はこうやっていたよ』とか。本当にいろいろとアドバイスを受けながら、切磋琢磨させてもらっています」。1カ月ぶりの1軍先発となった15日のオリックス戦(京セラドーム)では、勝ち星こそつかなかったものの、8回無失点と快投。東浜からの助言を生かした。
大津だけでなく、板東湧梧投手とも身振り手振りを交えながら、真剣に話し込む東浜の姿も見られた。今季まだ1軍での登板がなく、2軍でも思うような投球ができていない後輩に寄り添うように声を掛けていた。
「出力がどうのこうのっていう話はしてましたね。アドバイスっていうほどでもないですけど、『こうなっているよね』とか、『こうした方が理論的にはいいよね』とか。自分のわかる範囲で話もしますし。でも結局はやっぱり自分で考えて自分の感覚に落とし込むっていうのが大事だと思うんで、その助けになればいいなと思いますし、その中で自分もヒントをもらえるところもあるし。お互いに話してっていう感じじゃないですかね」
苦しむ後輩に自身の経験や知識を伝えることで、彼らにとって何かヒントになればいい。しかも、それは一方的なものではなく、東浜自身も常にきっかけを探しているのだ。プロ12年目、34歳のシーズン。チーム内でも和田毅投手に次ぐ“ベテラン投手”となった。思うようにいかないことだってたくさんある。再昇格のチャンスもまだ得られていない現状だが、どんな時も東浜から探求心と向上心と優しさが消えることはない。
(上杉あずさ / Azusa Uesugi)