攻略された“仮想・斉藤和巳”「俺も打たれた」 石塚綜一郎の活躍を笑顔で喜ぶ理由

ソフトバンク・斉藤和巳4軍監督【写真:竹村岳】
ソフトバンク・斉藤和巳4軍監督【写真:竹村岳】

8月31日のロッテ戦で決勝打…ファンに向けて「この声援があるから」

 現役時代に2度の沢村賞に輝いた“仮想・斉藤和巳”も、攻略してみせた。7月24日に支配下登録されたソフトバンクの石塚綜一郎捕手が1軍に昇格し、8月を終えた時点で8試合に出場して打率.267という結果を残している。斉藤和巳4軍監督は「貢献してくれている」と語る。「俺も打たれた」と笑う姿も、うれしそうだ。意外にも聞こえる2人の関係性だが、最新鋭のマシンを通じて、お互いを理解するようになっていった。

 8月21日の楽天戦(楽天モバイルパーク)でプロ初安打&初本塁打を記録。惜しくもチームは敗れたが、限られた打席の中で爪痕を残した。その後、2軍降格となる予定だったが、中村晃外野手が体調不良となったことで、継続して1軍に帯同。8月31日のロッテ戦(ZOZOマリン)では6回2死二、三塁から左前2点打を放ち、勝利に貢献した。「この声援があるからこそやっていけると思うので、本当にありがたいです」と、ヒーローインタビューも初々しかった。

 斉藤和4軍監督も石塚の姿を「もちろんうれしいよ」と笑顔で見守っている。指導者としてホークスに復帰した昨シーズンは、1軍で投手コーチを務めていた。石塚との接点はなさそうに思えるが、2人の関係を深くしたのが、昨年5月に球団が導入した最新鋭マシン「iPitch」だった。

 iPitchとは、回転数や回転軸まで細かく調整することができる打撃マシン。データを打ち込めば全ての投手を再現することができ、数値上からロッテの佐々木朗希投手らのボールも作り出してみせる。昨シーズン、2軍監督だった小久保裕紀監督も「今日は山本由伸に設定してやりました」と、ファームから積極的に活用してきた。本来なら1軍の打席に立たなければ経験できないような投手との対戦を、若鷹たちは繰り返している。

 今季からは「iPitch検定」と呼ばれるテストも導入している。レベルは「1」から始まり、最大の「16」では150キロに加えて変化球もミックスで投げてくる。そのレベル16をクリアして、1軍に飛び立ったのが石塚だった。斉藤和4軍監督も、石塚の検定には立ち会ったことがあるという。球団の取り組みを存分に活用して、1軍で結果を出し始めているのだから、その貢献度は非常に大きい。

「選手の技術が上がるために、上達するために球団が入れてくれた機械を使って、スタッフの人、コーディネーターの人たちが検定っていうテストを考えてくれた。石塚はそれを積極的に受けた選手やから、ちゃんと1軍で結果を残しているのは、ある意味、球団であったり、コーチだったり、スタッフを正解にしてくれている選手。石塚が受けているのはずっと見ていたし、やっていることは間違いじゃないんやなっていうのも、こっちも思うから」

ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:小林靖】
ソフトバンク・石塚綜一郎【写真:小林靖】

 さらに、この検定の“最大値”を引き上げたのも、石塚だという。斉藤和4軍監督は「15から16は一気にレベル上がるからね。球種も増えるし、ボールの質も変わってくる。石塚のクリアを機に、中澤(恒貴内野手)が今受けている16は全然違うし、石塚が受けていたよりもレベルが上がっている」と明かす。球団が作り上げた最高難易度を超えたのだから、さらに高い壁を設定することになった。石塚が誰よりも愚直にiPitchと向き合い、1軍を目指してきた証がここにもある。

 レベル15では、数値上は現役時代の斉藤和4軍監督クラスだったという。2度の沢村賞を獲得し、通算勝率.775で“負けないエース”と呼ばれた。攻略した石塚に指揮官も「俺15やからね、あいつに打たれたってことよ(笑)」と話す。昨季から導入されたiPitchをはじめ、球団の取り組みという面で言っても「だから石塚は色々と貢献してくれているところはあると思っている。方向性を見せてくれたっていう部分でも、うれしいです」と代弁した。

 1軍投手コーチから、今季は4軍監督に配置転換となった。石塚とは「会うたびに話はするし、2週間くらい4軍にも来ていたからね。あいつも話すのは好きやから、話したらバーって話すんよ。人懐っこいし」と言う。1軍の最前線で戦ってきた野球人生だが、今はファームから若鷹を送り出す立場。「投手でも、瑞樹(三浦)でも居残りで4軍にいたし、上で投げているところを見るだけでもうれしい。特に俺らが預かるのはほとんど育成やから、そういう選手たちのいい励みになってほしいし、こっちからもいいハッパをかけていきたい」。指導者として、新しい喜びを味わっているところだ。

 今は3桁を背負う選手たちにとっても、石塚の活躍は道標になるはず。それを認めつつも、斉藤和4軍監督は「それ(1軍への道筋)は俺らが感じさせないといけないのもあるし、自ら感じる選手もいてほしい。何も感じないっていうのはまだまだ意識が低い証拠。人に何かを動かされているっていうのはね。自ら感じて動く選手っていうのは、何かが変わってくる」と厳しく注文した。

(竹村岳 / Gaku Takemura)