牧原大成が失策で「ごめん」 藤井皓哉が明かすやり取り…無言で2人が誓った“やり返す”

ソフトバンク・藤井皓哉(左)と牧原大成(右奥)【写真:栗木一考】
ソフトバンク・藤井皓哉(左)と牧原大成(右奥)【写真:栗木一考】

17日のロッテ戦で藤井皓哉が3失点…先頭打者の出塁は牧原大成の失策だった

 強気が代名詞とも言えるほどの先輩から、謝られてしまった。「ごめん」。投手と野手は、持ちつ持たれつ。ミスをした選手を助けたいと、より強く思った出来事だった。「ゼロで帰ることでみんなが救われる。それができなかった悔しさはありました」と語るのは、藤井皓哉投手だ。

 17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)だ。先発のカーター・スチュワート・ジュニア投手は6回2失点で、同点のまま試合は8回に突入した。マウンドに藤井が上がり、先頭の高部が放った打球は二塁へ。イージーなゴロではあったが、牧原大がファンブルして出塁を許してしまった。その後、2死満塁でポランコに3点二塁打を浴び、チームも敗戦した。

 やり返すチャンスはすぐに来た。翌日の18日、牧原大は5回1死から右越えの1号ソロを放つ。藤井も同じ8回に登板して、3者凡退でバトンを繋いだ。チームの勝利に貢献した中で、2人だけのやり取りを藤井が明かす。牧原大からの“謝罪”があった。

「マキさん(牧原大)も『ごめん』と仰ったんですけど、僕は『大丈夫です』というか。僕はこれまでもたくさん助けてもらってきたので。マキさんも(失策は)気にされていたので。それに『気にしないでください』とは言いつつも、あまり言いすぎても……というのはあったので。マキさんならね、翌日もホームランを打ちましたけど、絶対にやってくれると思っていたので。それ以上は何もなかったですけどね」

ソフトバンク・藤井皓哉(左)と牧原大成(右奥)【写真:栗木一考】
ソフトバンク・藤井皓哉(左)と牧原大成(右奥)【写真:栗木一考】

 18日のロッテ戦後に牧原大も「藤井にも申し訳なかったですし、絶対に飛んでくるだろうなと思っていました」と語った。8回無死、小川の打球を処理して今度は藤井を助けた。「やっぱりゼロで帰ってくるのが最低限の仕事。もちろん、ヒットだろうが、エラーだろうがそれは同じですけど。エラーがあったなら、ゼロで帰ることでよりみんなが救われると思う。それが土曜日はできなかったので、そういう悔しさはありました」と、藤井も牧原大と同じ悔しさを抱いていた。

 ホークスに入団して3年目を迎えた右腕。先発も中継ぎも経験して「マキさんはもちろんですけど、本当に野手の皆さんに助けてもらっています」と感謝は尽きない。「だからこそ、ロッテ戦のああいう場面は抑えたかったですし、普段も僕らがピンチの時に声をかけてくださるのは守っている皆さんなので。そういう人たちがいて、僕らもピッチングができています」。ミスがあったのなら、なおさらゼロに抑えることで野手を救いたい。投手にとっても大きな仕事の1つだ。

 藤井はマウンドでは、感情を表情に出さない印象がある。「あまり強くなりすぎて空回りしてしまっても良くないですから。しっかりと、どんな形でもゼロで抑えたい。ゼロがやっぱり、自分の気持ちを楽にしてくれると思うので」と、あくまでも自然体だ。「入り込み過ぎないことも大事だと思いますね」と言うのも、自分を制御する難しさを知っているから。熱い気持ちと冷静な状況判断を持ち合わせて、藤井はいつもマウンドに上がっている。

 プロとして「やり返す」ことがどれほど大切か、藤井の身にも染みている。「野手もそうだと思いますけど、投手はもう“やるかやられるか”なので」。2021年は四国IL高知に在籍し、もう1度NPBを目指した。ホークスと育成契約を結び、2022年3月に支配下契約。開幕2戦目となった3月26日、日本ハム戦にホークス初登板を果たした。結果は0回2/3を投げて2安打、1四球。本塁打も浴びて1失点を喫した。

 27日の同戦、もう1度チャンスをもらった。1点ビハインドの5回1死満塁に登板して無失点で切り抜け、勝ち投手になった。当時の森山良二投手コーチ(現リハビリ担当コーチ)の決断には「今も感謝しています」といい、この2試合があったから「今の自分がある」と言うほどの出来事だ。「失点してしまった反省も踏まえて、連続で失点しないことが大事になってくると僕は思う。そういう意味でチャンスをもらえた」。大切なのは、打たれた後にどうするか。プロとして戦う以上、やり返す気持ちは絶対に失ってはいけない。

「マキさんもミスした後は大事にされていると思いますし、その後も打っているイメージはありますね。もちろんミスしないのがいいですけど、それはつきものなので。そこで次、どうするか。僕もそうですけど、そういうところが結果にも表れると思います」

 やり返すチャンスをもう1度、掴むために。プロ野球選手は、どんな時も諦めない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)