川瀬が今季最も印象に残っている試合に挙げたのは…
ソフトバンクの川瀬晃内野手が、鷹フルの単独インタビューに応じた。3回にわたって掲載する。第1回は「9年目で初めて味わった歓喜」について。プロ入りからスーパーサブ的な役割を担ってきた26歳が、押しも押されもせぬ“主役”になった一日。自身が「ターニングポイントになった」と振り返った試合とは。
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本拠地みずほPayPayドームの大観衆による歓声が自分1人に降り注ぐと、これまでに感じたことのない喜びが体全体に染み渡った。今季最も印象に残った試合として川瀬が挙げたのが、プロ初のサヨナラ打を放った4月27日の西武戦だった。
場面は同点の延長10回1死一、三塁。この試合に代走として途中出場し、そのまま二塁の守備に就いていた川瀬にビッグチャンスが巡ってきた。西武・増田の2球目を捉えた打球は無人の右中間へ。三塁走者がサヨナラのホームを踏むと、球場のボルテージは最高潮に達した。チームメートが自身のもとに集まる光景は、今も目に焼き付いているという。
「今まで自分の一打で試合を決めるっていう経験がなかったので。いつもなら、そういう場面で代打を送られる立場でしたし。自分でも自信になりましたし、あそこでヒットを打てたことは一つのターニングポイントというか、プロ野球人生の中でも一番うれしかった瞬間だったなと思います」
打てばヒーローになる場面でもあり、打てなければ落胆のため息が向けられるプレッシャーのかかる場面でもあった。「おいしい場面だなというよりは、しっかりつなごうと。もちろん決めたいという気持ちはありましたけど、自分のバッティングをしようという感じでしたね」。川瀬が心掛けたのは平常心。それが最高の結果に結びついた。
打った瞬間は「だいぶ(外野が)前に来ていたので、抜けるなと思いました」。仲間からの熱い祝福を受けると笑みが止まらなかった。「いつもは先輩たちを出迎える立場だったので。先輩たちが駆け寄ってくるのが見えてすごくうれしかったですね」。普段は“黒子役”が多いだけに、喜びは格別だった。
帰路に就いても手に残った感触は離れなかった。「やっぱリ興奮してなかなか寝られなかったのはありますね。ちょっと余韻に浸るというか」。自宅での“祝杯”はじつに川瀬らしいものだった。「僕、家では飲まないんで。お茶でした!」。美酒ならぬ美茶で喜びをかみしめたという。
今季から1軍の指揮官が小久保裕紀監督に変わり、川瀬は開幕から1軍戦力として重宝されている。「抜け目がないというか、隙のない野球っていうのが小久保さんの中で一番にあると思います。1つ1つのプレーに対して緩みがない。いつも声をかけていただきますし、ケツをたたいてくれるみたいな感じですかね」。“小久保野球”にとって川瀬は不可欠な存在だ。
「悔しい思いもずっとしている分、やっぱり優勝したい。みんなでマウンドに集まってワイワイしたい。一番は小久保監督を胴上げしたい。それだけですね」。4年ぶりとなる歓喜の瞬間まで、チームを支え続けてみせる。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)