ソフトバンクは21日、楽天戦(楽天モバイルパーク)に1-2でサヨナラ負けを喫した。痛恨の連敗となってしまったが、貴重なチャンスを若鷹が生かした。「7番・指名打者」で先発した石塚綜一郎捕手がプロ初安打&初本塁打を記録した。高卒で入団して5年目のスラッガー候補が爪痕を残したものの、小久保裕紀監督は試合後に2軍降格を明言した。その理由に迫る。
2回2死で打席に入ると、変化球をライナーで中前に弾き返した。スコアは動かずに両軍無得点で迎えた5回無死、145キロの直球を左翼ポール際に運んだ。「1打席目にプロ初ヒットが出て、気持ち的に思い切っていくことができました。今まで取り組んできたポール際の打球が切れずにフェアゾーンに返ってくる理想のバッティングができました」。9回にサヨナラ負けを喫したが、自分のバットでチームが勝利するまで、あと少しだった。
小久保監督は試合後に「チーム事情的に明日から2軍なんですけど、最後に勝負できる自信に繋がってほしい。ファームに行ってからも、今(1軍に)いるメンバーが全然ダメならすぐに呼べる状態を維持していてほしい」と明かした。そして付け加えるように「今日はどれだけ打っても、入れ替えは決まっていました」と話した。
「吉田にしてもそうなんですけど、やっぱり1軍は守れないと長くいられないんで、DH枠だけでずっと行くっていうのが難しい。晃(中村)が戻ってくるんで、晃と入れ替えになるんですけど。ただファームに行っても、石塚はキャッチャーの子ですけど、もう今は外野とファーストもやっていますので。ファーストでも十分、土のグラウンドとかでも出せるっていうぐらいになるとまた活躍の場が広がると思うので」
指揮官が例として名前を挙げたのが、吉田賢吾捕手だった。7月5日に1軍昇格し、29日に登録抹消。10試合に出場して打率.192、5安打、2打点を記録した。吉田も1軍にいた期間で指名打者としてのスタメンが7度、代打が3度と守備機会は1度もなかった。2軍降格後に本人も「一番は守備です。守備をやらないと出られないです」と即答する。ウエスタン・リーグでも打率.310と一定の数字を残している。だからこそ、守備が必要であることは誰よりも理解していた。
石塚も捕手登録ではあるが一塁や外野守備にも取り組んでいる。2軍では試合後に必ず外野守備の練習をするなど、その技術はまだまだ発展途上だった。小久保監督は「落ちる前に初ヒットも初ホームランも打って、秋田出身ですし東北で活躍できてよかったんじゃないですか」と小さく頷いた。27本塁打を放つ山川穂高内野手が一塁では83試合に出場してわずか4失策。石塚は一塁として3試合には出場しているものの、吉田と同様、バッティングを評価しているからこそ守備力の向上を求めていた。
小久保監督はこれまでも「長く勝ち続けるためには新しい選手を作っていかないといけない。育成抜きに組織は半永久的な強さはないですよね」と話してきた。6月15日の阪神戦(みずほPayPayドーム)でも笹川吉康外野手がプロ初本塁打を放ったが、試合後に「ずっとは(1軍に)置いておかないんですけど、置いておきたくなる感じはしますよね」と早期の登録抹消を示唆していた。そして、20日に2軍再調整となった。
近藤健介外野手や今宮健太内野手、山川のようなレギュラーがいるからこそ、2軍で結果を残している若手にチャンスを与えることができる。その視点を常に持ち続けた小久保監督にとっては、石塚もその1例なのだろう。2軍降格がすでに決まっていた試合でも本塁打という最高の“爪痕”を残したことにも「ここにいる選手たちにとっても、石塚がこの状態で落ちたのはね(刺激になる)。ファームでどんな姿でやっているかはずっと注目しています」とキッパリ言った。本気で石塚を戦力の1人として考えていることが、言葉からも伝わってきた。
小久保監督は、昨シーズンは2軍で指揮を執っていた。2軍戦では、1試合で出場できる育成選手は5人まで。「2軍で使ってやることはあまりできなかった」と話す中に、石塚の名前も挙げていた。ファーム時代から接する時間は長かったからこそ、人柄も能力も、深く理解している。勝利と育成を本気で両立させようとしているから、もう1度必ず石塚とプレーすることを、小久保監督は楽しみに待っている。