被弾を覚悟した。スタンドのファンが立ち上がる中で、ただ1人、諦めずに打球を追った。ソフトバンクは21日、楽天戦(楽天モバイルパーク)に1-2でサヨナラ負け。1点をリードした9回に松本裕樹投手が2点を失い、2敗目を喫した。痛恨のサヨナラ負けとなった中で、守備でファンを喜ばせたのが周東佑京内野手だった。仙台で見せた“ホームランキャッチ”。打ったフランコとの小さなやり取りも明かした。
楽天の先発は内で、ホークスは大関友久投手。2人の投げ合いは序盤からゼロが並んだ。4回2死三塁で柳町達外野手が左飛。その直後、楽天に全く同じ「2死三塁」という状況が訪れた。打席には、20日に2ランを放っているフランコ。ツーシームを振り抜かれると、打球は左中間に高々と上がった。中堅から追いかけた周東は、最後に背伸びをするようにしてフェンス前で捕球。先制点を与えない価値のあるプレーとなった。
ファンからも「ヒヤッとしたけどナイスキャッチ」「終わったと思った」との声が相次いだ。周東本人は何を考えながら打球を追いかけていたのか。上空の打球が「止まっていました」と表現する。
「風のおかげですね」と、第一声でプレーを振り返る。フランコが振り抜いた姿を見て「打った瞬間にホームランだと思ったんですけど、普通に追っていたらそこにあったって感じです」とサラリと話した。風は緩やかに左翼から右翼に向いて吹いており、目を切って背走しながら打球を見ると「(風に戻されて)ボールが“止まって”いました。入るだろうなと思ったんですけど、意外とそうでもなかったです」と表現する。
屋外球場だからこそ、打者が入れ替わるたびにバックスクリーンのフラッグを見る。「外の球場ですから、風は少なからず頭に入れていました」。井出竜也外野守備走塁兼作戦コーチも「フィールド内だったら追いつくかなとは思いましたけど、逆風でしたから。打った瞬間は『行った』と思いましたけど、風があったので『吹いてくれ』って感じでした」と、祈りながら打球を見つめた。グラブを伸ばさなければ、実際にスタンドインしていたかと問われると、周東は「それはわからないですね」と少し笑って振り返っていた。
本拠地のみずほPayPayドームは、外野手がジャンプしても“ホームランキャッチ”ができないほどにフェンスが高い。周東は「そもそもPayPayだったら、あれはホームランです」と、フランコの当たりはそれだけ会心だった。中堅から一塁ベンチに帰ってくる時、フランコとも少しやり取りがあったように見えた。「どんなんだったんですかね? 『捕ったの?』みたいな感じだったので『捕ったよ』みたいな」と、グラブの中に収まっている白球を見せてあげたようだ。
投げていた大関友久投手も、驚きの表情だった。「フランコ選手の(打球)はほぼほぼホームランみたいな当たりでした。(打たれた瞬間は)『際どいな』って思って、入るか入らないか微妙だと思ったんですけど、そこは周東さんに助けてもらいました。ベンチの裏ですぐに『ありがとうございます』って伝えました」とやり取りを明かす。6回無失点の好投は、野手にも助けてもらったからこそ。「次はもうちょっとしっかり抑えられるように頑張ります」と反省を忘れないのが大関らしかった。
同じ外野手たちも、周東が見せたプレーの凄さは伝わっていた。ベンチから見守っていた緒方理貢外野手は「追っている感じで『え、これ捕るんじゃない?』『捕った、えぐい』みたいな感じでした。『あれ捕る?』『えぐすぎやろ』ってベンチもなっていました」と証言する。佐藤直樹外野手も「あれは佑京さんしか捕れないでしょう。抜けるかなって感じでしたけど『捕るんや』って思いました。えぐいです」と目を丸くしていた。
小久保裕紀監督は常々、周東の走力はもちろん、中堅守備についても「だから外せない」と表現する。諦めることなく追いかけたから、生まれた好プレー。「諦める時は諦めるんですけどね」と言ってのけるのも、周東らしかった。