誹謗中傷も…受け止めてきた主砲 ベルーナD最終戦、山川穂高がお辞儀に込めた思い

ベルーナドーム最終戦で整列するソフトバンクナイン【写真:小池義弘】
ベルーナドーム最終戦で整列するソフトバンクナイン【写真:小池義弘】

15日の西武戦がベルーナドームの最終戦…深々と頭を下げていた山川穂高の胸中

 誰よりも深く、誰よりも長く、頭を下げていた。批判も含めたいろんな声が自分にも届いてくる。それを踏まえても、ファンの方々に抱くのは「リスペクト」の思いだけだ。ソフトバンクは108試合を消化して70勝35敗3分けで首位を走っている。15日の西武戦はレギュラーシーズンにおいて、ベルーナドームでの最終戦となった。試合後、スタンドに整列に向かうホークスナイン。深々とお辞儀をしていたのが、昨季まで西武に在籍していた山川穂高内野手だった。

 試合の内容も、山川の独壇場だった。まずは初回2死に24号2ラン。5回1死二塁、7回1死三塁でも25号&26号2ランを放ち、自身7年ぶりとなる1試合3本塁打を記録した。「本当に奇跡だと思います」と目を丸くする。小久保裕紀監督も「山川すごかったですね。2か月くらい苦しんでいたんでね。その溜まっていたものをね。残りの試合で爆発してくれたらいいですよ」と手を叩いた。

 15日の試合を終えた時点で、消化したのは105試合。ビジター球場の“最終戦”が訪れたのだから、シーズンも終盤に突入していることを感じた。試合後の整列、ナインが横一列に並ぶと、山川は誰よりも早く頭を下げ、顔を上げたのも最後だった。昨オフに国内FA権を行使してホークスに移籍したが、西武は10年間プレーした古巣。どんな思いで、深々とお辞儀をしていたのか。

「色々ね、プロ野球なのでありますけど、野球が好きな者同志、人たちと戦っていく中で、相手にすごくリスペクトをしています。それは紛れもない事実ですよね。僕たちはプレイヤーとしてやりますけど、そうやって応援してくれる人とか、裏方さんも含めて、サポートしてくれる人がいるから我々が成り立つじゃないですか。リスペクトをしているし、お互いに野球が好きな人としてやっていくっていうところの敬意ですね」

 チームには選手がいて、監督やコーチがいる。運営する球団、ファンが快適に過ごせるように働く球場のスタッフなど、多くのサポートがある。そしてその全ては、ファンの存在がなければ成り立たないことを、誰よりも山川は理解していた。感謝の気持ちを伝えようと思えば、自然とお辞儀をする時間は長くなっていた。

「西武ファンも含めて全球団でそれは本当に思います。やっぱり自分のチームが好きで、自分のチームにいる選手が好きで。自分の人生の一部として、こうやって応援してくれています。僕たちはもうこれがまさに人生ではありますけど、プレーをする側なので。僕は人を応援するっていう立場にまだなったことないですし、応援される側でここまで来られていますけど。ファンの方も含めて、まず対戦する相手に敬意を払うというのは大事なことです。本当に思っています。これはライオンズに関わらず、です」

 西武での最終年となった2023年。5月に強制性交等の疑いで書類送検され、8月には不起訴処分となった。無期限での出場停止となり、17試合出場で本塁打はゼロ。1か月以上、公の場で発言する機会がないまま迎えた鷹の入団会見では「叱咤激励、色んなご意見、『頑張って』と言ってくれる方々もいた。最後まで声援にどうにか応えたい部分と、自分がこれを戒めとしてやっていき続ける(思い)、そして三笠GMに『それでも必要だ』と強く言ってもらったので、そこでかなり悩みました」と胸中を明かしていた。

本塁打を放ち、どすこいポーズをとるソフトバンク・山川穂高【写真:小池義弘】
本塁打を放ち、どすこいポーズをとるソフトバンク・山川穂高【写真:小池義弘】

 年が明け、ソフトバンクの選手として初めてベルーナドームを訪れたのは4月12日。スタメン発表の時からブーイングが飛び、球場は異様な空気に包まれていた。「4番・一塁」で出場すると、初回2死三塁で打席に立つ。今井の前に空振り三振に終わると、西武ファンから「いいぞいいぞ、今井!」と大歓声が上がった。移籍という決断を尊重してくれるファンもいた一方で、山川なりに厳しい声と受け止め続けてきたシーズンだ。「共通して言えるのは……」。誹謗中傷すら「正義」だと、山川は言う。

「今は色々ありますけど、誹謗中傷だとか。そもそもそれって野球が好きじゃないと始まらないことじゃないですか。やっぱ野球が好きじゃない人っていうのは、そもそも興味がない。やっぱり好きだからこそ、その人たちにはその人たちの正義があって、それを言える時代だからこそ、そういうことが起こるなっていうのは思います」

 山川が語ったニュアンスは、全てのチームに対しても心からリスペクトしている、というものだった。「どのチームにも最後に挨拶する時には、とは思っていますけどね」。ホークスの選手として戦ったベルーナドームという舞台。頭を下げて伝えたかったのは、リスペクトと感謝だった。野球を愛するファンの方々に、山川は言った。「球場に足を運んでくれて、試合を最後まで見てくれる。本当に尊敬しています」。

(取材・飯田航平 / Kohei Iida、文・竹村岳 / Gaku Takemura)