同期との外食で実感…「野球のスタート切れた」
優しい“お兄ちゃんたち”と過ごした時間は、かけがえのない記憶になった。現在は2軍に合流し、日々汗を流しているドラフト1位ルーキーの前田悠伍投手。体付きも一回り大きくなり、着実にプロの階段を駆け上がっている左腕が「本当にいい会になった」と振り返った出来事があった。
春先から3軍や4軍で過ごす時間が多かった前田悠だが、15日までに2軍戦8試合に登板し、そのうち5試合に先発。37回1/3を投げて自責点7、防御率1.69と高卒1年目らしからぬ成績を残している。遠征にも帯同する機会が増えてくるが、普段は寮で生活している左腕は滅多に外食に出ることがないという。
そんな前田悠が「改めて頑張ろうという気持ちになりました」と振り返ったのは、中日との試合のために訪れた名古屋での夜に開かれた同期との会食だった。「投げる2日前ぐらいだったので、ちょっとケアをしようかなと思ってたんですけど……」。この日も誘いを断ろうかと悩んだ末、行くことを決断した。その理由を満面の笑みで明かした。
「祝ってもらえたというか、ああいう会を開いてもらってうれしかったです。同期の選手が一番仲がいいというか、最初からずっと一緒なので、何も気にせず参加できた。本当にうれしかったです」
2005年8月4日生まれの前田悠は19歳の誕生日を迎えたばかり。可愛い弟分を祝おうと外食に誘ったのが、東京農業大から育成ドラフト2位で入団した宮里優吾投手だった。「悠伍の誕生日は過ぎちゃっていたんですけど、(日程が)近かったんで。どうせだったら同期で行こうって」。宮里は岩井俊介投手、廣瀬隆太内野手、大山凌投手にも声をかけ、誕生日会が実現した。
「あいつ外に出るの嫌いなんですよ。(普段から)マジで来ないです。普通に渋ってましたもん」。外食に連れ出すまでのやりとりを明かしたのは岩井だった。迷っていた前田悠だったが、「やっぱ行くわ」との連絡が入り、夕食を共にすることになったという。
「最初は行く気じゃなかったんですけど、誕生日を祝うのも兼ねて、ということだったので。それだったらありがたいなと思って行きました」。普段はホテルで済ませる食事も、この日だけは違っていた。誕生日を祝ってもらえるうれしさに胸を弾ませた。
誕生日会は主役を押し退けて、岩井と宮里が会話の中心だった。野球の話はほとんどなく、プライベートの話が主だったことも、気が許せる仲間だからこそ。「こっちから見てもうれしそうな感じはしたので、普通に誘ってよかったなって思います」。弟分の様子に宮里も満足そうな表情を見せた。
「みんな共通して優しいというか、面倒見がいいというんですかね。(年齢は)4つ違うんですけど、みんな受け入れてくれている。同学年かのように接してくれるので、自分的にもやりやすいです。頼れるというか、全員お兄ちゃん的な存在です」
19歳の誕生日会は思い出に残る1日になったと同時に、新たな出発地点にもなった。「あれがあったことによって、いいスタートというか、ホークスの選手としてのスタートが切れたんじゃないかなと思います」。その言葉通り、15日の中日戦は先発して7回2/3を無失点の好投。2勝目を手にした。お兄ちゃんたちとの会食は、前田悠をまたひとつ成長させる出来事になった。
(飯田航平 / Kohei Iida)2024.08.16