友達と遊べなかった中学時代 遠方でも応援に「距離感バグってる」…大山凌が父に届けた初勝利

ウイニングボールを持ちヒーローインタビューに応じたソフトバンク・大山凌(右)と小久保裕紀監督【写真:小池義弘】
ウイニングボールを持ちヒーローインタビューに応じたソフトバンク・大山凌(右)と小久保裕紀監督【写真:小池義弘】

ドラフト6位ルーキーの大山が好リリーフでプロ初勝利をマーク

 待望の瞬間は地元・栃木のお隣、埼玉の地で訪れた。厳しかった父に届ける1勝に、自然と笑みがあふれた。15日の西武戦(ベルーナドーム)で、ドラフト6位ルーキーの大山凌投手が2点リードの4回からマウンドに上がり、2イニングをきっちり無失点。チームはそのまま逃げ切り、嬉しいプロ初勝利を手にした。

 3回まで4-2と乱打戦の様相を呈していた試合を、見事に落ち着かせる投球だった。4回は野村大、西川から連続三振を奪うなど3者凡退。5回は四球と安打で2死一、二塁としたが、佐藤龍を遊ゴロに仕留めるとグラブをポンポンとたたいて気合をあらわにした。「(ウイニングボールは)父親に渡したいと思います」。22歳の右腕は気持ちよさそうに汗をぬぐった。

 プロ初先発となった7月17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)では3回3失点で降板。初回から3イニング連続で失点を喫し、「悔しいですけど、力不足としか言いようがないです」と唇を噛んだ。栃木から初勝利を願い、観戦に訪れていた父の栄幸さんに勝利を届けることはできなかった。高校時代は寮生活。親元を離れる前までは「毎日練習で、めちゃめちゃ厳しかった」という父の存在なくして、この日の勝利はなかった。

「父はトラックの運転手で、夜中に出て昼過ぎに帰ってくるので。学校から帰ってきたらいるんです。玄関先で待ってて、グローブ持ってるんですよ。『やるぞ』って」

 威厳のある父だった。中学時代に所属していた下野リトルシニアの練習は週に4日。「火、木、土、日であるんですけど、それ以外の日も休みはなかったので。中学時代は遊びに行くことがなかったですね」と、父との二人三脚での練習が毎日続いた。

「嫌でしたね。(父の)車が止まっているか、止まっていないかが見えるんですけど、止まっていたら、(家に)おるやんみたいな。折り返そうかなみたいな。玄関に上がれないですから。帰って荷物置いたら、もう練習です」。当時を懐かしむかのように、遠くを見つめながら語る大山の表情からは、当時の思いが伝わってくる。厳しかった父ではあるが、それも良い思い出。今では感謝の気持ちでいっぱいだ。

 成長を誰よりも近くで見守り続けてきた栄幸さんだったが、白鴎大足利高に進学してからは寮生活。当たり前だった父との練習はなくなった。それでも「(父は)保護者会長だったので、試合の時は結構来てました」と、高校進学後も応援に駆けつけていた。福島県いわき市にある、東日本国際大に進学後もそれは変わらなかった。

「大学の時のリーグ戦とか大会の時は毎週見に来ていました。トラックの運転手だから、多分距離感がバグってるんですよね。平気で青森とかまで行くので。『全然いけるっしょ』って」

 初先発したロッテ戦後には、栄幸さんと会って野球の話をした。「最近はもう友達みたいな感じです」。今日は2人で初勝利の喜びに浸ってほしい。

(飯田航平 / Kohei Iida)