前田悠伍が奮い立った渡邉陸の言葉 8回に最大のピンチ…首を2度振って投げた“勝負球”

ウエスタン・リーグの中日戦で先発したソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】
ウエスタン・リーグの中日戦で先発したソフトバンク・前田悠伍【写真:竹村岳】

松山秀明2軍監督も絶賛…今までで「一番ボールの威力が落ちなかった」

 まさに「ベストボール」だった。手に汗を握る緊迫した状況で、2人はピッタリと呼吸を合わせようとしていた。ソフトバンクの2軍は15日、ウエスタン・リーグの中日戦に5-0で勝利した。先発の前田悠伍投手が7回と2/3を投げて無失点という投球で、2勝目を挙げた。最大のピンチは8回1死一、三塁。首を2度振り、この日のベストボールで三振を奪った。

 初回は3者凡退。2回は先頭のビシエドに二塁打を浴びて、続く加藤にはセーフティバントを決められて無死一、三塁となった。ここは三好を3球で見逃し三振。山本は浅い中飛で、山浅も二ゴロで切り抜けてみせた。厳しい状況でも一塁走者を目で牽制し、1球ごとに間(ま)を変えるなど工夫も見られた。その後は2度の併殺打などでピンチを作らせず、試合は終盤に突入した。完封勝利を期待するファンの空気も、少しずつ高まっていた。

 8回は先頭の津田に二塁打を許す。山本は投直も、石橋に左前打で1死一、三塁となった。中日が代打で送り込んだのは、1軍でも通算7本塁打を記録している大卒3年目の鵜飼だ。カーブとチェンジアップを駆使して2ストライク2ボールにまで持っていく。ここで前田悠は、渡邉陸からのサインに2度、首を振った。この試合でも最大の山場となった鵜飼との対戦について、前田悠はこう振り返る。

「やっぱり一発、長打がダメだと思っていたので、いろんな球種を使って的を絞らせないようにしていました。最後(7球目に空振り三振とした球)はツーシームがいいところに落ちてくれたので、あれがベストボールだったと思います」

 5球目に首を振って選択したのは、高校時代からの決め球でもあるチェンジアップだった。舞台裏について渡邉陸は「あれは『首を振って』っていう僕からのサインでした。それを2回出しました」と明かす。前田悠の前回登板、8日の中日戦(バンテリンドーム)でもバッテリーを組んだが「あいつから首振らないんですよ。だから今日もそこ以外で何回か使っていたんですけど、あえて僕から首を振らせました」と1つの仕草をも使ってバッターを惑わせようとしていた。

 7球目のラストボールは、125キロのツーシーム。前田悠は「チェンジアップだと、外野の前に落とされる気がしたので。真っすぐの残像の中で、半速球で落として振ってもらう意図で投げました」とバッターの気配を感じ取っていた。渡邉陸も「“首振り”を出した後のサインも『自分もそれ投げたかったです』という感じで頷いてくれるので、投げたい球と投げさせたい球は一致していたんじゃないかなと思います。最後のツーシームも、チェンジアップよりも早い球種で空振りを取りに行きました」と、バッテリーにとっても納得の表情だ。

8回1死一、三塁のピンチでマウンドに集まるホークス選手たち【写真:竹村岳】
8回1死一、三塁のピンチでマウンドに集まるホークス選手たち【写真:竹村岳】

 見守っていた松山秀明2軍監督は「今日は今までの中で、一番ボールの威力が落ちなかったですね。完封で行ければいいなとは思いましたけど。最後はちょっとへばりましたね」と笑顔で笑う。プロに入って取り組んできた体作りが、少しずつ身についてきた証だ。鵜飼を迎えた8回1死一、三塁。ここでホークスベンチは小笠原孝2軍投手コーチ(チーフ)がマウンドに行った。試合において間(ま)が少しできた。輪が解けた後、渡邉陸から前田悠に何かを伝えた。たった一言だった。

「ギア、上げていくぞ」

 序盤から走っていた直球も、8回は140キロを割るようになっていた。渡邉陸は、そう声をかけた意図についても「今日の中だったらあそこが一番の踏ん張りどころだったので。その前くらいから真っすぐも元気なかったんですけど、最後は変化球でも腕を振ってくれていたので、集中してくれました」と、最後の力を振り絞ってもらいたかったからだ。午後1時開始のデーゲーム。うだるような暑さでも、前田悠は「高校の時は暑い中で投げていたので、ベンチでしっかり休憩して次のイニングに行っていました」と胸を張った。

 2登板連続で、同じ中日戦。14日に登板した左腕の前田純投手の映像に目を凝らしたといい「大体は、純さんと僕は似たような感じ(スタイル)なので。いつも以上に自分でデータというか、映像を見て今日は挑みました。いつもはちょっと見てという感じなんですけど、ノートにも(中日の打者の特徴)を書いたりして」。前田悠なりに対策を立てて迎えたマウンド。その結果が、並べてみせたゼロの数だ。

 103球を投げて、完封まではあとアウト4つだった。「最後まで行きたい思いはありましたけど、満塁で鍬原(拓也)さんにバトンを渡してしまったので、抑えていただいて感謝しています」。これがウエスタン・リーグでの2勝目。少しずつではあるが確実に、プロの道を歩んでいる。

(竹村岳 / Gaku Takemura)