栗原陵矢の答えは「OKです」 首脳陣からの問いかけ…自打球後に塁上で見せた“サイン”

ソフトバンク・栗原陵矢(右)と井出竜也外野守備走塁兼作戦コーチ【写真:竹村岳】
ソフトバンク・栗原陵矢(右)と井出竜也外野守備走塁兼作戦コーチ【写真:竹村岳】

初回の打席で左膝に自打球…本多コーチも代弁「頭に星が浮かぶくらい痛い」

 まさに、レギュラーとしての自覚そのものだった。ソフトバンクは12日、楽天戦(みずほPayPayドーム)に14-4で大勝した。山川穂高内野手が23号ソロを含む4安打4打点の大暴れ。大関友久投手は7勝目を挙げるなど大差をつけた試合の中で、心配だったシーンが初回にあった。栗原陵矢内野手の左膝に自打球が直撃した。その直後、首脳陣が栗原から受け取った“大丈夫のサイン”とは――。

 相手先発は津留﨑。初回無死、牧原大成内野手が初球を右前に運んだ。続く今宮健太内野手も右前打で繋ぎ、栗原を迎えた。1-2からの4球目、内角に入ってくる変化球にバットを出すと、左膝に直撃。村上隆行打撃コーチ、奈良原浩ヘッドコーチがベンチを飛び出し、最後は小久保裕紀監督も栗原の表情を見にきていた。2022年には手術も経験した箇所。“古傷”ということもあり、首脳陣はもちろん、スタンドのファンも心配そうな表情で見つめるしかなかった。

 治療のためにベンチに下がると、首脳陣は「交代」を選択せず。栗原は二ゴロの併殺崩れで一塁に残り、山川穂高内野手の適時打で二塁へと進んだ。近藤健介外野手を打席に迎え、二塁走者となった栗原から“サイン”を受け取ったのは、この時だ。三塁ランナーコーチの井出竜也外野守備走塁兼作戦コーチが明かす。

「僕から『大丈夫か?』『走れるか』って言ったら『OKです』『大丈夫です』ということでした」

 外野への打球なら、一気に本塁を狙う必要のある場面。井出コーチからの確認に栗原は、両手を小さく動かしてリアクションしていた。「大丈夫です」というニュアンスを込めたジェスチャーだった。

 近藤の打球は一、二塁間を破っていく。栗原は迷うことなく三塁を蹴って、2点目のホームを踏んだ。腕を回した井出コーチも「必死になってアドレナリンも出ていたと思いますし。自分が痛い時っていうのは、本当に自分にしかわからないので。(痛くても)ああいうふうにできるっていうのは、レギュラーだなって思いますね」と最敬礼する。結果的にはワンサイドな展開になったが、貴重な2点目だったことは間違いなかった。

 ベンチに戻ると、普段ならナイン全員と交わすハイタッチを途中で切り上げて、すぐに裏に消えていった。奈良原コーチは「あそこ(5回1死一、二塁から四球で出塁)までは行けるという感じだったから行ってもらいました。本人も『行けます』というから。本人がそう言っているところを代えるわけにもいかないですし」と、舞台裏を明かす。本人の言葉を信じて、尊重した。

ソフトバンク・栗原陵矢(右)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・栗原陵矢(右)【写真:竹村岳】

 初回の栗原の打席で、併殺崩れで一塁に残った時。本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチも言葉を交わした。「痛そうでしたね……。膝に当たった瞬間に、あれはもう激痛ですからね。時間が経てば痛みが引いてくる経験は僕もしたことありますけど、自打球って本当に痛いんです。その時は本当に、頭に星が浮かぶくらい。明日がどうか、ですよね」と代弁する。それでも二塁からの生還も含め、自分からグラウンドを退くことをしなかったのは、レギュラーの自覚そのものだと本多コーチも言う。

「主力として、サードを守っている一員としての責任というか、そういう考えはもちろんあるに違いないです。その辺はね、怪我をすることはいけないんですけど、1試合の中で勝つために、ね。自分の意思が大事なんだなって(見ていても)思いました」

 栗原本人は、ゲームセットしてすぐにスーツ姿のまま、みずほPayPayドームを後にした。その隣には、甲斐拓也捕手もいた。ここまで101試合に出場して打率.271、12本塁打、60打点。8月に入ってから「小久保監督に『これからチームを引っ張っていく選手として、そういう(感情的な)姿を見せない方がいい』と。直接言われたわけではないんですけど」とコメントしたこともあった。左膝が無事であることを祈るのみだが、栗原の自覚が痛いほどに溢れ出たシーンだった。

(竹村岳 / Gaku Takemura)