小久保監督は又吉を絶賛「きょうは何といっても又吉」
「何でも屋」の神髄が表れた投球だった。8日のロッテ戦(ZOZOマリン)で3点リードの6回。2番手の長谷川威展投手がロッテ打線に1点を返され、なお無死一、二塁の場面でバトンを受けたのが又吉克樹投手だった。
相対したのはリーグトップの打点をマークしているソト。「この前(7月15日の同戦)にホームランを打たれていたので、次に対戦するときはどうやって抑えようかなと考えていたことが、きょうにつながったと思います」。外角スライダーを引っかけさせた打球は三塁への力ないゴロとなり、結果は注文通りの併殺打。続く佐藤も中飛に仕留め、この日最大のピンチをしのぎきった。
「やっぱり、きょうは何といっても又吉。あそこをゼロで返ってきた又吉。ピッチャーでは又吉が(この日の)MVPですね」。試合後の小久保裕紀監督はやや興奮気味に、完璧なリリーフを披露した右腕への賛辞を惜しまなかった。先発の石川柊太投手、2番手の長谷川を救った又吉は何を思ってマウンドに上がったのか。
「勝っている状況でつなげればベストだけど、それを嫌がってフォアボールでランナーをためないことだけを意識しました」。結果的に石川には3勝目がつき、長谷川は1失点で収まったが、「もう、それを背負えるほど大した人間じゃないので。今はとにかく自分のことで精いっぱいですし。結果、抑えられたのは良かったかな」。指揮官がMVPと称えた右腕は、自身の仕事をさらりと振り返った。
倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も、プロ通算490試合登板の経験を持つ又吉の働きを高く評価した。「きょうの試合は又吉の働きが一番大きかった。ある程度、継投は考えていたので」と口にしたうえで、「本当に又吉の経験が今すごく生きていると思います」とうなずいた。
首脳陣からの称賛を受けた又吉だが、自らの立場を冷静に見つめる。「なかなか登板がない中で、結果を残さないといけない立場なので。そういう意味ではまた明日から準備して、マウンドに立てるようにやっていければいいかなと思います」。
FA移籍で2022年からホークスに加わった右腕だが、昨季までの2年間は故障や不調などでフルシーズン投げることができなかった。今季の登板機会はビハインドの展開や大量リードの場面に限られている。「人のことを背負えるほど自分に容量があるわけでもない」。口調はあくまで静かながら、胸の内は熱くたぎっている。
中日時代も含め、自身のキャリアで初めてとなるリーグ優勝に着々と近づいている。
「全部が初めての体験なので。想像ができないので何とも」とはにかみつつ、すぐに表情を引き締めた。「もらえるチャンスが少ないのは分かっているので。そういう意味では1回1回の登板を大事にして、それがつながっていけばいいかなと思います」。経験豊富な33歳の存在は、確実にブルペンの屋台骨となっている。
(長濱幸治 / Kouji Nagahama)