プロ初安打を記録したが7月29日に登録抹消…得た課題は「真っすぐ」
自分が進むべき道を、先輩が歩んでくれている。ソフトバンクの吉田賢吾捕手が7月29日に登録抹消となり、ファームで再出発することになった。1軍で過ごした時間は1か月もなかったが、たくさんの課題と収穫を得た。吉田が真っ先に名前を挙げたのが「正木さん」。1歳年上の正木智也外野手だった。
神奈川県横浜市の出身で、横浜商科大から2022年ドラフト6位でホークスに入団した。1年目の昨季は1軍で1試合出場。今季は7月5日に初昇格となった。同日の楽天戦(みずほPayPayドーム)で「7番・指名打者」でスタメン起用されると、中前打でプロ初安打を記録した。
その後も出場を重ね、12試合で5安打という成績を残したが打率.192。最後は9打席連続で凡退するなど、プロの壁も感じた。7月29日に2軍降格となり、ファームで汗を流す日々。「根本的な技術のところは大きく変えなくていいと思った」と手応えを口にしつつ、1軍で得たものはどんなものだったのか?
「真っすぐをしっかりと弾けないと率は残らない。2ストライク後のアプローチは得意ですけど、追い込まれてからの打率は誰でも落ちますし。その中で、ファウルにしたり2ストライクにしてしまうケースが多かったので。すごく正木さんがわかりやすいんです。自分と正木さんって、2軍だと打率も変わらずに、いつも競い合っていたんですけど、1軍であれだけ結果を出している。いくらい状態がいいと言っても、あれだけ打つのは違うものがあるとはベンチで見ていて思いました」
今季のウエスタン・リーグで、吉田は125打数の39安打で打率.312、正木は161打数51安打でほぼ同じ打率.317だ(8月5日時点)。「正木さんってやっぱり、真っすぐに強いんです。そこが違いかなと。自分は変化球とか、コンタクトする方が得意なので。真っすぐを弾き返せないと苦しいなとは思いましたね」。ほぼ同じ数字を残しているということは、能力に大きな差はないはず。「三振を嫌がらずに、狙った真っすぐを打つ練習をやっていかないといけない」と、課題は明確になった。
「あまり人のことは意識していないです」と自分に集中しつつ、正木の打棒は「なんで打てているのか気になりますし、自分と比べたりもします」ときっかけは常に探している。みずほPayPayドームでは、ロッカーも近く打撃談義は頻繁にしていたそうだ。「正木さんもいつも『変化球きていたら打てていないから』とか、おふざけですけどね。でも自分で『なんで俺、こんなに真っすぐ来るんだろう』って言っていました」と、やり取りを明かした。1軍で結果を出すにつれて、自信にみなぎっていく正木の表情を近くから見ていた。
「話を聞いていても、迷いがないなって思います。あの打席の中でも冷静ですし『今日どうやって打つ?』みたいな話もするんですけど『昨日こうだったから、最初はこっちに来る。だからこう打つ』みたいに、迷いがなかったです。すぐに(答えが)出てきていました」
吉田自身も、1軍の重圧の中でヒットが出ない期間も経験した。「思い返してみたら、ヒットを欲しがって小さくなっていました。打席の中で『打たなきゃ』とはあんまり考えていなかったですけど、周りから見ても打ち急いでいる感じはあったと思います」と振り返る。だからこそ、迷いなく投手と対戦できている正木の凄さを、身を持って理解することができていた。「もともと僕も早打ちなんですけど、セレクトするボールが悪かったりした」と、課題を続けて口にした。
遠征先では、先輩が食事に連れ出してくれた。1軍にいたからこそ深く知ることができた期間で「おふざけをする時もあれば、真面目に話したり」と笑顔で話す。技術面でも「正木さんや川村(友斗)さん、年が近いメンバーはロッカーが近かったです。その他の技術面で言えば、健太(今宮)さんがずっと教えてくれていましたし、ノックを受けている時に山川(穂高)さんが教えてくれたり。晃(中村)さんもアドバイスもくれました」と、実績ある先輩は次々と手を差し伸べてくれた。
1軍で試合に出ることの価値も、喜びも知った。打撃面での手応えは確かに感じただけに「一番は守備です。守備をやらないと出られないです」と即答する。自分だけの形を作り上げて、もう1度、1軍で勝負してみせる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)