応援しないのは「絶対に違う」 痛恨の敗戦直後でも…海野&川村が今宮から学ぶ“伝統”

ソフトバンク・海野隆司、今宮健太、川村友斗(左から)【写真:竹村岳】
ソフトバンク・海野隆司、今宮健太、川村友斗(左から)【写真:竹村岳】

今宮健太の「いつも通り」…ゲームセットの直後に3人がベンチ前に立った理由

 敗戦直後でも、ホークスは美しかった。ソフトバンクは3日、日本ハム戦に7-8で逆転負け。最大5点差をつけたものの、8回に奪われた2点が決勝点となった。ゲームセットの後、全力で戦った選手をベンチ前で出迎えていたのが今宮健太内野手、海野隆司捕手、川村友斗外野手だった。「応援しないのは、絶対に違う」――。後輩2人が、今宮から学んでいる“ホークスの伝統”について、力強く話した。

 2回に2点、3回には4点を奪い、主導権を握った。しかし、ここまで10勝を挙げている先発の有原航平投手が、リズムを作れない。3点差とされると、5回無死一、二塁からは清宮に同点3ランを浴びた。7回に山川穂高内野手の19号ソロで勝ち越し、8回からダーウィンゾン・ヘルナンデス投手を送って逃げ切ろうとした。四球やバッテリーミスも絡んでしまい、失った2点が決勝点だった。

 清宮の被弾には、三塁の栗原陵矢内野手の失策も絡んだ。2回無死一、二塁では川瀬晃内野手が犠打を失敗した。ミスも目立ち、痛恨の逆転負け。9回2死一、三塁から代打・牧原大成内野手が一ゴロに終わり、ゲームセットとなった。沈むナインもいた中で、一走だった甲斐が戻ってくるまで待ち、ベンチ前で出迎えていたのが今宮、海野、川村だった。チームリーダーの今宮には、どんな意識があったのか。

「いつも通りですよ。それで(誰かのミス)負けたわけでもないですし、いつも通りです」

 今宮にとっての「いつも」を見ているのが、後輩の海野だ。「今までの先輩方が、そうやっていたので、それをやらないといけないです」と、自分が見てきた背中を体現しようとしているから、この日も最後まで甲斐を出迎えようとしていた。2月の春季キャンプ中には、今宮の存在を「しゃべらないとめっちゃ怖いんですけど、しゃべってみたらめっちゃ優しいお兄ちゃんです」と語っていた。半分以上、シーズンが終わった中、改めて今宮から学んでいるのはどんなことなのか。

「そういうところです。挨拶とかもそうですし。もちろん松田(宣浩)さんからも学んでいますけど、そこから代々、当たり前のことって言うんですかね。それをやっているのが今宮さんとか、晃(中村)さんだと思うので、自分たちもやらないといけないって感じです」

 小久保裕紀監督を迎え入れて、大きく生まれ変わろうとしているホークス。今宮はベンチの雰囲気について「どうしてもシュンとしているというか、雰囲気として『なんか違うかな』と。海野が一生懸命ね。ゲームに出ていない時はベンチの中で声を出してくれていますけど」と言及していた。その言葉には海野も「そこ(シュンとした雰囲気)は自分も少なからず感じているところです。真似ではないですけど、先輩のそういうところは見て学ばないといけないです」。自分が教えてもらったことは、後輩たちに受け継いでいかないといけない。

 正木智也外野手や柳町達外野手、緒方理貢外野手ら、海野も5年目を迎えて少しずつ後輩が増えてきた。「キャラもありますし、自分はそういう(盛り上げる)キャラですから」と、ベンチを雰囲気と姿勢から盛り立てていくことは自身の役割でもあると思っている。リーダーたちが常々、口にしてきた「チーム」の意味。海野も「そんなに背負える立場ではないですけど、ちょっとずつやっていけることがあると思います」と、欠かせないピースになろうと毎日が必死だ。

 今宮&海野と、ベンチ前に立っていた川村はどうだろうか。「甲斐さんがヒットを打ったので『ナイスバッティングです』って」と、かけた言葉を明かす。自分自身の行動についても「僕も4月とか5月にスタメンで出ていた時に、やってもらって嬉しかったんです。次の試合にも気持ちよく入れるところもありましたし、やってもらったからには僕もやっていきたいなって思ったからです」と説明した。9回1死一塁、川村は代打を出されて交代したが「今は結果が出ていないので当たり前。そこで応援しないのは絶対に違うので、代わったからにはもう応援しかない」と、ベンチの最前に立って声を枯らした。

 育成ドラフトから入団して今年の3月19日に支配下登録された。1軍で経験する全てが、初めてのことばかりだ。先輩の姿にも「試合に出ている時は声をかけてくれますし、勝負だっていう時にはガッと入っているイメージです」と毎日が勉強。今宮から学んでいることについても「すごくカッコいいです。カッコいいっていうだけで済ませられないんですけど……。今宮さんも晃(中村)さんも、試合に出てきた先輩方はカッコいいです」と、何度も同じ言葉を繰り返した。

 長らくチームを支えてきた今宮にとっては、新記録に並んだ日。遊撃手として1531試合出場と、パ・リーグ記録に並んだ。「怪我もありましたけど、親に感謝して、これまで支えてくれた人たちに感謝しながら、もっと伸ばせるように。感謝の気持ちを忘れずにこれからもやっていきたいです」。そう言って去っていくチームリーダーの背中に、ホークスの伝統が詰まっている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)