昨年は1人…今年はなぜ8人も支配下登録? 三笠GMが重要視する「球団内の競争」の真意

タマスタ筑後で行われた会見に臨んだソフトバンク・三笠杉彦GM【写真:竹村岳】
タマスタ筑後で行われた会見に臨んだソフトバンク・三笠杉彦GM【写真:竹村岳】

中村亮、三浦、前田純、石塚の4選手と支配下契約…今年の“昇格”は大量8人に

 ソフトバンクは24日、育成の中村亮太投手、三浦瑞樹投手、前田純投手、石塚綜一郎捕手と支配下選手契約を結んだと発表した。タマスタ筑後で行われた会見に臨んだ三笠杉彦GMは、鷹フルの単独取材に応じた。育成の支配下登録が今年は8人となった理由や、競争意識が働く環境作りの難しさなど、チーム運営についての考えを明かした。コメント全文は以下の通り。

【会見冒頭あいさつ】

「今、1軍は大変いい位置にいるわけですが、8、9、10月と戦力補強ができない中で、1軍の戦力として活躍できる能力と実績を残してくれた4選手を今回、支配下登録させていただいた。新たなスタートではありますが、すでにファームで十分な実績を残した上で、自身の力で勝ち取った支配下契約ですので、これまでの実績を自信にしていただいて。球団としても1軍で通用するという能力、実績を評価しての支配下契約ですので。ぜひ自信を持ってやってほしいなと思います」

――ここまで支配下選手の枠が5人残っていた。例年に比べても余裕があった印象だが、狙いは。
「昨年から4軍制を始めて、50人以上の育成選手が切磋琢磨している中で、昨年は育成から支配下に上がったのが1人ということもあった。1軍の戦力というのはもちろん、4軍制をしっかりと運営し、モチベ―ション高く選手たちが切磋琢磨する。シーズン当初の支配下の枠はある程度抑えて、競争してもらう環境を作りたいというのがフロントの考えでした。しっかり4軍制という中で皆さんに頑張っていただいて。頑張ってくれた育成選手を支配下登録して、チーム全体にいい活力を充満させたいという狙いは、ある程度達せられたのかなと思っています」

――選手の切磋琢磨ぶりに手応えは。
「春先に支配下登録された3選手(緒方理貢外野手、仲田慶介内野手、川村友斗外野手)だったり、佐藤直樹選手だったりが、いい活躍をしてくれていてる。本当に今、いいペースで走っている1軍の力になってくれていると実感しています。今年、球団としてはコーディネーター制を強化して、育成選手に限らず、約120人の選手を各ポジションごとに隔てなく見て、その中でいい選手を推薦していくという取り組みを強化している状況です。フロントで決めるだけでなく、コーディネーターとも打ち合せを重ねて、支配下登録を決めてきた。そういう意味では、1軍の力になるということだけでなく、4軍制を含め、中長期的にチームを強化していくという取り組みができた年になったと捉えています」

――あと1枠残っているが、今後の補強方針は。
「7月31日まで期限がありますので、最後まで考えていきたいと思います」

――1軍の戦力補強という面はもちろん、育成選手にとってもいい環境を生んでいきたい。

「まぁでも、実際に彼らは支配下の1年目の子とかに比べれば、力が上なので。例えば前田(純)投手とかね。結果を出した人がちゃんと1軍に出るチャンスを得られるという形にする方が自然じゃないですか、という話のほうが大きくて。育成の循環(が目的)みたいな話になると、力がないのに上げていると捉えられがちだけど、そうではなくて十分に力があって。(今回の4選手を)すぐに1軍に呼ぶかというとそうではないけど、支配下で(チームに)入ってきたばかりの選手に比べると、ずっと力が上だというのは評価しているので」

「あとは育成選手の2軍戦出場枠(5人まで)というのを我々としては撤廃してほしいと思っていて。育成選手制度を取り入れた当時の考え方は理解できるんですが、そのルールがあることで、どうしても支配下の選手を使わざるを得ない。ドラフトではこの選手は支配下、この選手は育成と評価して獲得するんですけど、その後は競争なので。今回この4人が上がることによって、彼ら自身は当然支配下選手として使われるし、彼らが今まで使っていた枠っていうのをほかの選手に使えるというメリットもある」

――育成選手の2軍戦出場枠撤廃については、すでに働きかけている。
「それはすでに12球団の中ではコンセンサスができているので。かつては巨人だけが育成選手を抱えていたのが、今はどこの球団にも選手がいますので」

タマスタ筑後で行われた会見に臨んだソフトバンク・三笠杉彦GMと4選手たち【写真:竹村岳】
タマスタ筑後で行われた会見に臨んだソフトバンク・三笠杉彦GMと4選手たち【写真:竹村岳】

――シーズン当初に支配下の枠を空けていた方が競争意識が活性化するという実感がある。
「そうですね。まぁ実際に起きていることというのは、競争意識というよりかは支配下の選手よりも力が上の育成選手がいるということですよね。それは当然、18歳で支配下として入団した選手もいますし、大卒や社会人から育成に入った選手もいますから。ということがあるので、チームの循環というよりは、競争環境をしっかり保つという意味で、育成だけど支配下選手よりも力が上の場合は、同じ土俵に乗せるということが大事なんじゃないかなと」

――適正な位置づけができるように。
「そうですね」

――育成からの支配下登録がわずか1人だった昨年の反省もあったのか。
「何が正解かは分からないですけどね。支配下の選手を育成選手にしてしまうという代償を通じて、こういう環境にしているということでもあるので。そこのプラスマイナスがどっちかというのはすぐには語れないし、分からないので。あとはその時々のチョイスというか。こういう形にしたいからって、育成と支配下の間にすごく力の差があるのに、あえて育成選手を増やすってことをしたら、それはそれで意味がないし。それは永遠の課題ってことですよ」

――シーズン中に支配下枠を埋めるということは、当然オフになると育成契約や戦力構想外になる選手も多くなる。厳しい世界であることは変わりない。
「そうですね。こちらはいろいろと考えてやっていますけれども、選手にとっては大変な話でもあるので。4軍制をやっているのは僕らの球団だけなので。トライアンドエラーで。ご指摘の通り、今年に関してはある程度こちら側の考えでやっているところなので。これもしっかり振り返って。今年の結果だけじゃなくて、それ以降もみて考えないといけない。ある程度の流動性というのは選手にとって大事。切磋琢磨して競争していくというのは一般論としてスポーツには大事なことなので」

――今年は中村亮選手や、佐藤直選手は2度目の支配下登録となった。たとえ育成契約となっても、選手に勇気を与える前例になったのでは。
「僕らとしてはスカウトが頑張ってくれて、いい育成の選手を取ってくれているし。支配下と育成の間の選手でものすごくいい選手はたくさんいるというのは事実なので。その中で競争してね。中村(亮)選手みたいに上がったり落ちたりすることもあるかもしれない。今育成選手で、支配下の力はあるけど枠の問題や各ポジションの選手層などの問題で上がれないという選手もいる。育成でいい選手はたくさんいるし、僕らも一生懸命、育成の体制というのを整えているので。その中で支配下の選手ももっと活躍してもらいたいと思いますし。特にドラフト上位の選手、1位の選手がどうなのか(活躍できていない)……というのは、皆さんが言われていますので。ただ前田悠伍くんもそうですし、ほかの選手も頑張ってもらいたいなと」

――球団としても育成で入団してくる選手に対してチャンスはあるというのが示せる。
「僕らはやっぱり球団内の競争というのを重要視しているので。12球団ある中で、そこはある程度僕らの特徴だと思っていますので。計画的にこの選手を我慢して使うという方針でやっていくのか、色んな選手がいる中で競争して切磋琢磨してやっていくのか。僕らはメリット、デメリットどちらもあると思うんですが、僕らは競争の中でやっていくというのを大事にするのが球団としていいことなんじゃないかなと思っております」

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)