「ご飯行くぞ」 小久保監督に誘われた緊張の瞬間…川村友斗が授かった金言

ソフトバンク・川村友斗【写真:竹村岳】
ソフトバンク・川村友斗【写真:竹村岳】

2軍監督時代から続く関係性で「プロ野球の全部を教えてくださっている方」

 緊張の瞬間だった。1杯目のビールは、すぐに飲み干した。ソフトバンクの川村友斗外野手は今季の前半戦を57試合に出場して打率.261、0本塁打、7打点。守備走塁からの途中出場も目立ち、3盗塁。外野手として53試合、守備にも就いている。1軍で経験する全てが初めてという日々の中で、小久保裕紀監督と食事に行く機会があった。

 川村は2021年の育成ドラフト2位で仙台大からホークスに入団した。プロ1年目の2022年、2軍で指揮を執っていたのが小久保監督だった。「僕にとって、プロ野球の全部を教えてくださっている方です」と感謝は尽きない。今年は春季キャンプからA組に帯同して、オープン戦では本塁打も記録。「本番モード」と位置付けた3月19日、仲田慶介内野手、緒方理貢外野手とともに2桁の背番号を勝ち取ってみせた。1軍の指揮を執る小久保監督の力となり、首位を走るワンピースとなっている。

 川村と指揮官が食事に出掛けたのは、今月11日の北海道。きっかけは、1本の電話だった。

「僕が、2軍に落ちて三宮でリッチー(リチャード)とかとプチ同級生会をした時に、正木(智也)が仲田と電話をしていたんです。『今日監督と緒方さんと、ギーさん(柳田)とかと支配下祝いでご飯行ってくる』って言っていたんですけど、その時に(仲田から)『川村は今度、サシだから』って。『え!?』と思いました(笑)」

 開幕から1軍でプレーを続けていたが、6月10日に出場選手登録抹消となった。21日に再昇格したものの、その間に仲田と緒方は監督からの支配下昇格の“お祝い”をされていた。ある日の試合前練習、外野で打球を追っていた時に小久保監督から声をかけられた。「『大阪から北海道に移動する日、何してるんや』って監督に言われて『何もないです』って。そしたら『この前言っていたご飯、行くぞ』と」。すぐさま川村は指揮官のマネジャーのもとへ。伝えた言葉が、川村らしかった。

「『僕、海老と蟹が食べられないんで、そこだけマジでお願いします』ってすぐに言いました。開幕の前に、ギーさんに誘っていただいた時も蟹のコース料理を変えてもらったりしましたし、今度はそうならないように……」

 緊張しながらも、時間はすぐにやってくる。当日、指定されたお店は寿司屋だった。川村と小久保監督、マネジャーの3人。着席するとすぐに、小久保監督は大将に「こいつ、海老と蟹がダメなんです」と言ってくれた。「バカ緊張しました。1杯目のビールはマジで早かったです。喉も乾きすぎて」と、お酒の力も借りようとした。午後6時から始まった会で「『9時くらいかな』って会話が聞こえてきたので、終わりかなと思ったら『もう1軒付き合え』って言われました」。夜はまだ続く。

 歩いて移動した2軒目はバーだった。カウンターで横に並んで、グラスを傾ける。1軍の指揮を執る人間と、少人数で食事に行く機会は非常に貴重だ。話の内容も「本当に、たくさんしました。野球のことも。普段の生活のことも。(故郷でもある)『北海道だから、どうだ?』とか」。印象に残った話は胸に拳を当てながら「いっぱいあるので、秘めておきます」と頷いた。直後に“1つだけ”明かした。

「バーがカウンターだったんですけど、王会長から言われたことで『個室を取っていない時に話しかけられたら、しっかり対応しなさい』と」

 プライベートを楽しんでいる時間の中で、小久保監督に声をかけたファンも実際にいたという。何も変わらずに応じる姿を、川村も目の前で目撃した。「めちゃくちゃ話をされていました。それで言われたのが『見えるところにいたらしっかり対応しなさいと俺も言われてきたから、そうしろよ』って」。グラウンド外の時間だとしても、どんな時でもプロ野球選手でいなさい――。夜道を歩きながら授かった金言がまた、川村を成長させてくれた。

「全部が、本当にいい時間でした……。もう1回行きたいくらい楽しかったです」。振り返っても表情が少し固まるほど、緊張の瞬間だった。プロ野球選手として自分を成長させてくれる小久保監督を、必ず胴上げしたい。

(竹村岳 / Gaku Takemura)