井口資仁氏は王監督就任3年目の1997年からダイエーでプレーした
ダイエー(現ソフトバンク)やメジャーで活躍した野球解説者の井口資仁氏がホークスを語るコンテンツ(不定期掲載)。第5回のテーマは「王イズム」。入団1年目の1997年からホワイトソックスに移籍する2004年まで王貞治監督(現球団会長)のもとでプレーし、植え付けられた“勝者のメンタリティー”を語った。
王監督就任1年目の1995年は5位、翌1996年は6位。井口氏は青学大4年時の同年にダイエーを逆指名してドラフト1位で入団したが、当時のチームは「弱かった」と回顧する。王監督は毎日のようにミーティングで選手らに意識改革を求めていた。
「まずは勝ちにこだわるというのが大きい部分でした。何事も最後まで諦めない。一球の大切さですよね。『この一球は2度と来ない』というのは選手によく言っていました。打席で一球でもおそろかにするなと。プレーボールから試合終了までは3時間くらいしかない。自分の打席は4、5回程度しかないんだから、その中の一球一球を大切にしろと。そのためには練習からしっかりと全力で練習して、試合で一番いいパフォーマンスを出せるようにしようと」
求めたのは一球への執着心。現役時代の王会長は神経を研ぎ澄ませて投手の一球に集中。ことごとく打ち返して、通算868本ものホームランを積み重ねてきた勝負師だった。
練習態度に関しても選手に説いていたという。「当たり前のことを、どう当たり前にこなしていくか。普段の練習に取り組む姿勢が試合に出るという話をよくしていました」。練習から全力プレー。「ホークスはそれがずっと浸透しています。練習量は今でも一番多いですし、当たり前のことを当たり前にこなしているのでチームエラーが今年も少ない。そういったことが、ここ何年も続いています」。今季のソフトバンクの失策数はリーグ最少の33個だ。(7月21日時点)
固い守備力は“王イズム”の賜物だ。「今はもう自分たちから負けていく、エラーで崩れていくことはない。だから、相手が崩れたときは自分たちのものにできる。弱いチームは何でこんなことが起きるの、というプレーが年に何試合かあります。でもホークスにはないですよね」。少し誇らしげに語った。
王監督からもらった“金言”「投手を飲み込むくらいの勢いで」
“王イズム”はプレーだけではない。「ファンサービスに対しても、しっかりとやるように選手に求めていました。今日しか球場に来られない子どもがいる。全力で応えてあげよう」。プロ選手としてのあるべき姿を徹底させた。
「当時、チームは弱かったので。王監督もなんとか常勝軍団に変えていこうと、毎日選手の前でそういう話をしていました」
言葉だけで簡単にチームが強くなっていったわけではない。「もちろん、1年とかで変えられるものではありませんでした。変えていくことはとても難しかったと思います。王監督1人では変えられないので、周りのコーチ陣も一緒になって変えていこうとしていた。それでも4、5年はかかりましたよね」。
王監督就任4年目、井口氏入団2年目の1998年に21年ぶりのAクラスとなる3位。そして1999年に悲願のリーグ優勝を成し遂げた。井口氏もシーズンを重ねるごとにチームの中心選手へと成長していった。
「僕は入団後に打撃で悩んでいたので、そのあたりのアドバイスを王監督からはよくいただいていました。特にタイミングの部分。王監督は1本足で打っていて、僕も足を上げるタイプだったので、そこでのタイミングの取り方ですかね。『投手を飲み込むくらいの勢いでバッターはタイミングを取らないといけない』と言われたのが強く印象に残っています」。井口氏のプロとしての原点は「世界の王」とともにある。
(湯浅大 / Dai Yuasa)