大山を救った先輩たちの“思いやり” 甲斐と周東の言葉に…溢れ出た感謝

ソフトバンク・甲斐拓也(左)と周東佑京【写真:竹村岳】
ソフトバンク・甲斐拓也(左)と周東佑京【写真:竹村岳】

初先発のマウンドは3回3失点で勝ち負けつかず

 選手会長が、正捕手が、同期入団右腕が、みんながプロ初先発ルーキーを助けたかった。17日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)。球宴前最後となる本拠地ゲームの先発マウンドを託されたのが、大山凌投手だった。

 東日本国際大からドラフト6位で入団。6月9日に1軍初昇格を果たすと、この日の試合前までで6試合に登板し、防御率0.82の成績を残していた。首脳陣から将来を嘱望されているからこそ、任されたまっさらなマウンド。だが、3回まで毎回失点を喫し、4回のマウンドに上がることはできなかった。「悔しいですけど、力不足としか言いようがない。そんなに甘くないです」。ほろ苦い先発デビューを言葉少なめに振り返った。

 降板時点で1点ビハインドとプロ初黒星がつく可能性もあった中で、バッテリーを組んだ甲斐拓也捕手が5打点の活躍。大山の後を受けた2番手の澤柳亮太郎投手は2イニングを6人でピシャリと抑え、チームは逆転勝ちを収めた。甲斐とともにヒーローに選ばれた周東佑京内野手も、走攻守において勝利に貢献。そんな3人は大山に対し、どのような思いで戦ったのか。

「しっかりリードして、いい形にしてあげたかったんですけど……。大山はちゃんと投げていたんですけど、結果的にそうなってすごく悔しかったっていうのはありますし、今日はもうそこかなと思います」

ソフトバンク・大山凌【写真:竹村岳】
ソフトバンク・大山凌【写真:竹村岳】

 マスクをかぶった甲斐はこう振り返る。「今日は3回まででしたけど、本当にいい球を投げますし、コントロールもいいですし。いいピッチャーだと思っている。しっかりリードしきれなかったところが今日はあった」。同点2ランに、勝ち越しタイムリーを放ったヒーローは、どこまでも後輩投手を思いやった。

 初回に1点を先制され、なお2死三塁の場面でファインプレーを披露した周東も「勝ちをつけてあげたいというよりも、安心して投げてもらいたかった。(味方が)守ってくれる、打ってくれるという気持ちで投げさせたかったのが一番だったので。あの打球は捕れてよかったなと思います」とコメント。登板前に言葉をかけることはなかったが、プレーで大山を盛り立てた。

 試合後、甲斐と周東の言葉を伝え聞いた大山は思い出すシーンがあったのか、少し間を置いて言葉を発した。「嬉しいですね……すごく」。唇を噛みながらも、感謝の思いを口にした。

 大山とともに帰路についた澤柳亮太郎投手の思いも、先輩2人と同じくらい強かった。「大山の後を受けてだったので、同期として『自分が仇を取る』じゃないですけど、しっかり1つずつアウトを取って、流れを作っていきたいと思っていました」。4回、5回を三者凡退に抑えた澤柳の投球は、逆転への足がかりとなった。

 悔しい初先発のマウンドとはなったものの、頼もしい先輩と同期が周りにいる。大山自身も「多分ちょっとの何かだと思うんです。もう1回映像を見て、反省したいと思います」と、自分自身で手応えを掴みつつあることは、次回登板へ向けての収穫となる。

 目標にしていた初先発初勝利は、栃木から球場にまで応援に駆けつけた父に届けることはできなかった。それでも、この経験は必ず糧となる。「1軍で投げたところを初めて見たと思うので……。次こそは頑張ります」。最後はしっかりと前を見つめながら球場を後にした大山。次回の投球で借りは返す。

(飯田航平 / Kohei Iida)