「タクシーの乗り方でわかります」という人柄…又吉克樹なりに大切にする人間関係
印象的な言葉がある。又吉克樹投手が、山川穂高内野手について語っていた時だ。「あいつはめちゃくちゃ人のことを見てるよ」。監督やコーチ、スタッフだけではなく、グラウンドの外でも、プロ野球選手が接する人の数は非常に多い。通算232本塁打、3度の本塁打王を経験している山川の“人を見る目”は、どんな部分から感じるのか。
沖縄出身の2人は又吉が中日、山川が西武にいた時から面識があった。「デニーさんがいたから、みんな挨拶しに来るから、その時にいろんな人と知り合いになるんです」。現役時代は「デニー友利」の登録名で親しまれ、又吉にとっては中日時代にコーチとしてお世話になった友利結さん。沖縄県浦添市出身の友利さんのもとに、自然と選手は集まってくる。又吉自身も「沖縄の選手は見るようにしている」と、関係はすぐに深まっていった。
今ではチームメートとなり、今年2月の春季キャンプ中には東浜巨投手や嶺井博希捕手らとともに“沖縄会”も開催していた。山川が「人のことを見ている」というのは、食事中の些細な話からでも強く伝わってくるという。
「細かい話とかも含めて、ですね。野球のプレーでも、リッチー(リチャード内野手)の打席でのアプローチの見方も、自分でいかに置き換えて話しているか、というのがすごくうまいです」
山川と食事をすると、自然と野球の話になる。「誰かが打てなかった時の声かけとかも、見ていないと声はかけられないですから」。周囲に目を光らせていなければわからないような部分が、山川の言葉からは明確に伝わってきたそうだ。周東佑京内野手も助言をもらうことがあるというように、山川の存在がチームメートに大きな影響を与えている。「みんなから(助言を)求められるということは、見られているとも思いますし、(山川も)選手のことを見ているんだと思いますよ」と、又吉なりにも感じ取っているようだ。
取材の受け答えでも、山川はいつも理路整然とした技術論を言葉にしてくれる。発言の1つ1つも、プロ野球選手にとっては大切な個性。言葉について具体的に勉強をしたことは「ないですよ」というが「考えは言語化できないといけない」と山川自身も意識を語る。
野手と中継ぎ投手では、練習のリズムも違う。その中で又吉なりに山川のルーティンを見ていると、三塁や一塁、時には遊撃の位置でノックを受けているところを見かける。試合前練習の限られた時間からでも何かを得ようとしているのではないか、と又吉は言う。
「いろんなところに顔を出しているじゃないですか? いろんなところを守ったり、若い子のバッティングを見ていたりもする。なかなか、彼ぐらいのバッターで守備もファーストって決まっていたら、サードで(ノックを)受けたりとかする印象がないんですけど、山川はしているから。違うところから見たいんだろうなっていうのは、僕も見ていて思います」
又吉が名前を挙げたのは巨人、DeNAで活躍したホセ・ロペスだった。「ロペスがそうだったんですよ。いろんなところを常に守っていたので『なんで?』って聞いたら『見え方が違うから』って」。常に新鮮な景色から自分に刺激を入れているロペスの姿が印象的だった。一塁手としてゴールデン・グラブ賞に5度輝いた助っ人。「『サードで捕っているだけでも、この辺に来るんだとかがわかる』とも言っていた」と、守備面にも“見る目”は生かされていたそうだ。そんな助っ人に、山川の姿勢は重なって見える。
又吉も当然、人を見る目は大切にしている。通算485試合に登板して46勝、170ホールドという成績を残す中で、野球選手に限らず、多くの人間と接してきた。「大体、タクシーの乗り方でわかります。なんとなくですけどね」という。
「タクシーの運転手さんに対する言葉遣い、態度とか、降りる時にお礼が言えるか、言えないかとか、ちょっとしたことですよ。『どこどこに行って』って言う人もいるじゃないですか。赤の他人に(丁寧に応じることが)できるということは、親しい人にもできるってことだと思いますし。あとは車を綺麗に乗っているか、とかですね」
山井大介、岩瀬仁紀、山本昌……。結果を残していた先輩たちは、どんな人にも言葉遣いが丁寧だった。「僕も、なかなか調子が上がらない時とかは家が汚くなりますもん」と自分の心のあり方は、すぐに生活にも表れるという。几帳面で、ロッカーが綺麗だと知られる山川にも通ずる部分が多いはず。又吉も、プロ11年目。“人を見る目”は、一流選手の共通点だった。
(竹村岳 / Gaku Takemura)