育成出身の先輩として伝えたい思いがあった。厳しくも愛情溢れる兄貴肌。右脇腹の怪我から復帰を目指し、ファームで調整を続けている牧原大成内野手は、背中でも言葉でも、後輩たちに熱い姿勢を示している。
4月27日の西武戦で右脇腹を痛めた牧原大は、6月22日に行われたウエスタン・リーグのくふうハヤテ戦で実戦に復帰。そこから5試合連続で安打を放つなど、徐々に状態を上げている。出場選手登録を抹消されてから、リハビリ生活などで若手たちと一緒に練習し、プレーする中で感じることがあった。
「みんな(1軍に)上がるためにやっていますけど、まだ上手くいかないで落ち込んだりする人もいる。試合の中でミスして切り替えができない選手たちがいる。そういったところはちょっともったいないかなと思いますね。2軍は失敗する場所だと思うので、もうちょっと貪欲にやる姿勢は見せて欲しいかなと思います」
昨年末の契約更改後の会見で育成選手たちに苦言を呈するなど、育成出身の先輩として思うことが今もある。だからこそ、2軍でプレーする育成選手たちに度々声をかけ、食事に連れて行き、コミュニケーションを図って自身の経験や思いを伝える機会を作っている。
食事に誘うのは、ほとんどが育成選手。「育成の子らは結構、ご飯に連れていきました。いろんな話をして、頑張ってくれたらいいかなって。支配下の選手っていうよりも、なんか育成選手にもっと頑張ってもらいたいので、そういった意味で」。自らも育成選手から這い上がってきた過去がある。同じ境遇から這いあがろうとしている育成選手たちを鼓舞したい思いがあるという。
なかでも、1週間で3回も食事に誘ってもらった石塚綜一郎捕手は大いに刺激を受けていた。「練習量の話もそうですけど、『もっとやっていた』って。仲田(慶介)さんの話とかも出てきて、『仲田は練習量がすごいとか言われてるけど、あれが普通よ』って。僕もやっぱりまだ足りないなって思います」。石塚は牧原大との会話をこう振り返り、自身の現状を受け止めていた。
試合後も、全体練習の後も、積極的にバットを振っている石塚の姿は印象的だ。「今年は量を増やそうって。量ってか、もうやるだけやって、ほんとにもうそこだけ。後悔しないように。特に人がやってない時にっていうのは意識してやってます」。必死に練習量を増やして取り組んでいるが、牧原大と話す中で「まだまだ」「もっともっと」と自分にさらに発破をかけるようになった。
勝連大稀内野手も牧原大と食事を共にした1人だった。「結構いろんな話をしたんですけど、1番は『頑張っとけば、みんな見てるから』みたいな。『他球団も見てるし、何があるか分からないから、とりあえず頑張っておけば何かある』って。自分も、その通りだなと思いました。これからも何があるかわかんないですけど、頑張っておけば、ほんまに何かあると思うので。常に、誰かに見られてるとか、あまり意識してはいなかったですけど、自分の全力で頑張っていればいいかなって」と、牧原大の言葉が励みになった。
「めっちゃ優しいんで、色々な技術とかも学べますし、それ以外でも面白いです。普通に優しい。でも、言うところはしっかり言ってくれる。怒るとかじゃなくて、こうやった方がいいよとか、ほんとに良い先輩です。すぐ1軍に戻られると思うけど、2軍で一緒にやれてよかった」。勝連は語り、先輩との貴重な時間を今後に生かそうと誓っていた。
そして牧原大はこんなことも伝えていた。
「小久保さんはイチから何でも見ているから」
石塚はその内容を明かす。「所作とかそういうところも見ている。所作で損する部分もある」「歩き方とか態度とか見た目とか、どんくさそうだったり、ダラダラしてるように見えるだけでも損。足が遅くてもそう見させないことも大事」。牧原大にこう説かれたという。石塚も歩き方や姿勢を意識するようになった。小久保裕紀監督の掲げる「美しさ」にも繋がる部分を、日頃から大切にしようと誓う。
「試合の結果も大事ですけど、やっぱり練習の姿勢とかも見ている人がいる。そういったところも見られているんだよっていうところも伝えたんで。これからどう変わっていくかは彼ら次第だと思う。僕にできることはこれくらい」
牧原大が伝えたかった熱い思いは後輩たちにもきっと伝わっているはず。自らも経験した育成選手という立場。だからこそ、親身になって、厳しいことも言いたくなるし、優しく手を差し伸べたくもなる。自身も悔しい時間を過ごしている牧原大。そんな中でも、後輩たちにとって、かけがえのない貴重な時間となっている。