動作解析に着目して技術改善も「たくさんの人に相談、協力してもらっています」
「『何やってんだろう』って情けない気持ちでした」
自分の現状を表した言葉だった。ソフトバンクの板東湧梧投手は、いまだ1軍のマウンドに立てずにいる。ウエスタン・リーグでも5試合に登板して1勝0敗、防御率2.25。度重なる“小さな怪我”の影響で、実戦登板から遠ざかってしまった。チャンスを待つ日々の中で、和田毅投手からもらった助言とは。「何回もすみません」――。
昨シーズンは30試合に登板してキャリアハイの5勝、防御率3.04の成績を残した。今季は開幕からローテーションに入り、チームに貢献するつもりだった。オープン戦では3試合に登板、8イニングを投げて無失点と結果を残したものの、誰よりも自分自身が内容に納得できていなかった。開幕を2軍で迎えたが、ウエスタン・リーグでは4月20日の広島戦(タマスタ筑後)を最後に1か月以上、実戦登板から遠ざかった。板東に、一体何が起きていたのか。
「自分で怪我と言うほどの怪我でもないところから始まりました。背中をやって(痛めて)すぐに治ったんですけど、腰もあり、爪もありました。どれも大変ではなかったんですけど、長かったですね。ちょうど復帰のタイミングに重なってしまって、長引いてしまいました。葛藤もあって本当に『何やってんだろう』っていう情けない気持ちでした」
4月末に背中を痛めたが、そこまでの重度ではなかった。その後も右手人差し指の爪を痛め、復帰登板の予定が直前の発熱で流れたこともあった。「対策もしたつもりだったんですけど、(自分に)腹立たしかったですね」。マウンドに戻って来られたのは、6月15日の広島戦(マツダ)。1回を無失点に抑えて「久しぶりで緊張したんですけど、よかったです。結果どうこうよりも、まずは投げられて『ここからだな』という気持ちになれました」と、ようやく前を向ける段階にたどり着いた。
「元気にやれているって幸せだなって思います。その時(リハビリ期間)もポジティブになれるように努力というか、マインドの整理もしていました。自分の中でも、状態的にも精神的にもいい状態ではなかったので、これもいいタイミングだと思って(受け止めて)、前向きにはいられました」
技術的にも試行錯誤を重ねている。「たくさんの人に相談、協力してもらっています」という中で、改めて着目したのが動作解析だった。「どこに向かえばわからない状態でもあったので、何が必要なのかを整理しないといけないです」と、足元から見つめ直している。今のポイントは上半身にあるといい「ずっと下半身だと思っていたんですけど、今回のフィードバックで原因が出ました。それを潰すために、トライしようとしています」と語った。時には尾形崇斗投手や鍬原拓也投手の言葉にも耳を傾けて、改善策を探しているところだ。
6月のある日、残留練習で筑後を訪れた和田から助言をもらった。自主トレをともにした先輩に「自分が理解しきれていない部分があると、聞くたびに思います。今回も改めて『何回もすみません』『教えてもらっていいですか』と(自分から)言って、並進(運動)について教えてもらいました」と明かす。シーズン中でも食事に行くなど、久々の再会というわけではなかったが「改めて技術のことを聞くのは、たびたびできることではないです。何に向かえばいいのか、道標になった感じがします」。心から信頼する和田の言葉で、もう1度頑張ろうと思えた。
和田も2軍での再調整が決まり、板東とともに枠を争う立場となった。あくまでも、2人は競争相手。和田から「必ずチャンスは来るから」というような励ましの言葉をもらうことはないという。「そこに関しては何も言われないというか、フラットですね。現状で何をすべきかを言っていただきますけど、わからない未来の話はされないですし、僕からも聞かないです。僕も弱音というか、あまり見せたくないですし」と、挑む姿勢だけは絶対に忘れない。最善の努力を重ね、チャンスを待ち続けている。
2軍にいる日々の中でも、ファンの声援は耳に届いている。「こんな状況なのに、暑いのに筑後にまで足を運んでくださる方がいて、声もかけてもらうことがあるからこそ自分も頑張ろうと思えます。待ってくれている人がいるのは本当にありがたいですし、自分も頑張ろうと思えます」。必ずいい方向に進むと信じて、板東は今、前だけを見ている。
(竹村岳 / Gaku Takemura)