柳町達に「救われました」 正木智也の“恐怖心”…7月初安打が生まれるまでの焦りと迷い

ソフトバンク・正木智也【写真:栗木一考】
ソフトバンク・正木智也【写真:栗木一考】

三塁への内野安打で7月初ヒット「『神様、お願い!』って思いながら」

 自分でも気づかないところで、焦りや迷いを抱いてしまっていた。ソフトバンクは9日、オリックス戦(京セラドーム)に0-3で敗戦した。先発の有原航平投手は7回3失点と粘りを見せたものの、打線が無得点に終わった。見せ場を作ったのは、代打で登場した正木智也外野手だった。8回無死、三塁への内野安打で出塁。7月に入って初安打を記録した。無安打が続いていた期間、どのような胸中で過ごしていたのか。慶大の先輩でもある柳町達外野手に「救われた」という。

 相手先発は左腕の田嶋。チャンスを作りながらも、7回を終えてもホームベースを踏めずにいた。正木は7月、全試合でスタメン出場をしていたが、この日はベンチスタート。代わって「7番・右翼」で出場した川村友斗外野手も2三振に倒れていた。迎えた8回、川村の代打として打席へ。ペルドモと相対すると、初球からバットを出す。2球目、三遊間に打球を転がすと全力疾走で安打を奪った。「ホッとしています。昨日オフだったので、気持ちを切り替えて、積極的に行かないといけないと思った」と打席を振り返る。

「今日は初球からフルスイングできるように準備をして、あとは何も考えずに行きました。(一塁には)『神様、お願い!』って思いながら走っていました」

 6月21日に1軍昇格して以降、14試合連続でスタメンに名を連ねていた。7月7日の楽天戦(みずほPayPayドーム)では、2打数無安打で途中交代。7月に入ってから14打数無安打と、快音から遠ざかっていた。この時期で正木は、野球の「怖さ」を実感しているという。

「やっぱり焦りとかすごくありましたし『なんで出ないんだろう』とか、こんなに急に出なくなるものなんだなと思って、すごく野球の怖さを感じたというか……。そんな感じです」

 7日の楽天戦、4回2死一塁では初球に対してバットを止めて一ゴロに倒れた。あの打席も、今だから冷静に振り返ることができる。「不甲斐ない打席でしたし、迷いもあったと思います。自分では切り替えて行っていたつもりなんですけど、どこかで焦りもありました」。奈良原浩ヘッドコーチは「『打たなきゃ、打たなきゃ』になっているんじゃないかな」と敏感に感じ取り、6回の守備から途中交代させた。

 8回2死満塁に代打で登場した柳町が逆転の3点三塁打を放ち、日曜日は白星を拾った。正木もベンチでは力強くガッツポーズをして「救われましたね。チームも負けていて、その中で自分も全然ダメだったので『達さん頼みます』と思って見ていました」。同じ慶大出身の先輩が、苦しむ自分ごと助けてくれた。「日曜日は球場に行くのも足が重かったですし、切り替えていたつもりでしたけどそこはダメでしたね」。自分への不甲斐なさも、チームが勝利する瞬間までは胸に秘めて、必死にベンチからチームを応援した。

 一夜が明けた8日、野手にとっては休日だったが、正木はみずほPayPayドームを訪れていたという。「昼までは寝ていたんですけど(午後)5時くらいにドームに行って、練習してから(午後)8時の新幹線に乗りました」と明かす。「2軍の時も、オフの時はほぼ毎回ドームには来ていたので、そんなには変わらない休日でした」と珍しくないルーティンだったそうだが、悔しさが自分を突き動かしたのは事実だった。

 奈良原ヘッドコーチは「(8日は)休みなんでね、彼がどうリフレッシュして、どういう気持ちで、火曜日から来るかで変わるでしょう」と、正木の胸中を気にかけていた。京セラドームで再会し、打席での姿も「初球から振れて、そういう意味ではある程度割り切りというか、踏ん切りはできていたと思う」と印象を語る。プロとして戦うなら、打席では誰も助けてはくれない。「やるのは本人ですから。自分がどれだけ、腹を据えていけるかというところに尽きます」と力強い言葉で、また期待を表現した。

 3割打てば一流と言われる世界。失敗の方が多いバッティングという領域で、正木が思い知った“怖さ”を言語化する。バッティングとかいかに繊細なものなのか、骨身に染みるほど痛感した。

「本当に、ちょっとどこかがズレただけで全部がズレてしまうというのは感じましたし、自分ではそのズレは気づかないまま、どんどんいろんなことがズレていった。体の疲れとかいろんなこと(要因)があると思いますけど、繊細で難しいなと思いました。まだ1安打しか打っていないので、また明日ベストパフォーマンスをできるように頑張るだけかなと思います」

 取材に応じる表情からは、笑顔も確認できた。苦しんで乗り越えようとしているのは、何よりも成長の証。悔しさも不甲斐なさを知った正木は、もう自分を疑わない。

(竹村岳 / Gaku Takemura)