途中交代となった正木智也…首脳陣が明かした理由 中村晃が共感した若鷹の“恐怖心”

ソフトバンク・正木智也(右)【写真:栗木一考】
ソフトバンク・正木智也(右)【写真:栗木一考】

4回2死一塁でバットを止めて一ゴロ…奈良原ヘッドコーチが明かす交代の理由

 プロ野球選手なら、怖さは乗り越えていかないといけない。ソフトバンクは7日、楽天戦(みずほPayPayドーム)に5-3で勝利した。逆転勝利でナインが喜ぶ中で、心配されたのが途中交代となった正木智也外野手だ。試合の中盤で交代させた理由を、奈良原浩ヘッドコーチが明かした。中村晃外野手は「気持ちはよくわかる」と言い、今宮健太内野手も「監督も正木とかには期待していると思います」と言及した。

 正木は「7番・右翼」でスタメン出場。2回無死一、二塁では中飛に終わったが、二走の近藤健介外野手が三進。続く甲斐拓也捕手の中犠飛による先制点を演出した。4回2死一塁では初球を一ゴロ。止めたバットに当たり、力ない打球だった。6回の守備から右翼に就いたのは川村友斗外野手。8回の逆転劇の中で、正木はベンチで声を出しながら戦況を見守っていた。

 ウエスタン・リーグで打率.317と結果を残し、6月21日に1軍昇格した。同日のロッテ戦(北九州)でスタメン起用。小久保裕紀監督は「今の2軍の状態で上で勝負できんかったら、これは厳しいので。危機感を持ってやっていると思いますよ」と語った。しかし、7月に入ってからは14打数無安打。この日、なぜ途中交代となったのか。奈良原ヘッドコーチが明かす。

「自分のスイングができなかったってことですよね。『打たなきゃ、打たなきゃ』になっているんじゃないかな。せっかくいい感じで(2軍から)来たわけだから、自信を持ってやっていいんじゃないかなと思いますけどね。その部分が見えなかったっていうところにはなるかなと思います」

 奈良原ヘッドコーチは真っ先に強調した。「小久保監督はものすごく期待しています。だからあれだけ使っているわけですから」。6月21日に1軍昇格して以降、14試合連続のスタメン起用。期待はタクトにも表れていたが、この日の4回の打席には、首脳陣も敏感に感じ取るものがあったようだ。「明日休みなんでね、彼がどうリフレッシュして、どういう気持ちで、火曜日から来るかで変わるでしょうし。極端に打てない時って絶対誰にでもあるから」と続けた。

 小久保監督は首位にいる要因を「主力選手が、役割を果たしている」と話してきた。圧倒的な存在感を放つ近藤をはじめ、4番に座る山川穂高内野手、リーグトップの8勝を挙げる有原航平投手らが中心となっている。その中でも若鷹を積極的に起用してきたが、少しずつ下降線を描き始めている。1-5で敗れた5日の楽天戦後に「悔しさを通り越してというか、だんだん打席に立つのが怖くなってくる。そこを乗り越えないとこの世界では飯は食えない」と言い切っていた。

 勇気を結果に繋げた人物こそ、この日の中村晃だった。6回2死一、二塁から打席に立つと、1ボールからファーストストライクを捉えた。打球は右翼の前に弾み、反撃の口火となる適時打となった。「なかなかタイムリーがチームとしても出ていなかったですし、逆に思い切っていくしかないと思った。大事(だいじ)に行くのもよくないのかなと思った」と振り返る。耐えられないような重圧を何度も越えてきただけに、勇気が大事だということは骨身に染みている。

「集中力も大事ですし、こういう時は思い切って行った方が割と結果は出やすいのかなと、僕の経験上では思ったので、それがいい方向に行きました。怖さは常にありますし、その中でも自分でどういうふうに、打席でパフォーマンスを出すのか。勉強していかないといけないと思いますし、僕もたくさん失敗してきたので」

 若手たちが今感じている“怖さ”は、中村晃も通ってきた道だ。「経験はたくさんしているので、そういう時って誰にでもあるし。監督も言っていましたけど、レギュラーになるのはそういうものを乗り越えていかないといけない。若い選手にはどんどんと、壁を越えて行ってほしいです」。バットを止めて打ち取られてしまった正木も、さまざまな感情を今、抱いているだろう。中村晃も「気持ちはよくわかります」と理解を寄せていた。

 今宮も、中村晃の言葉に同調する。「そういったところを乗り越えていかないと、僕がいうのもなんですけどいい選手にはなっていけない」と言及した。通算1310安打を放ちながらも「僕が打つことに関して色々というのはあれですが」と謙遜する。その上で「守備の面でも『飛んできたら怖い』という場面は何度も経験してきました。そこをクリアしていくことで強さも出てくる。監督もそういうところを、正木とかには期待していると思いますし、打破していくのは個人ですから」と今宮らしい言葉で背中を押していた。

 中村晃にとっても、結果が出せるように最善の準備を繰り返しているところ。必要以上に重圧を感じることは「最近はないですね。今日なんかも『やったろう』『流れ変えてやろう』という感じで準備できました」と胸を張った。奈良原ヘッドコーチは「お願い、上手く書いてあげてね」と最後まで正木の胸中を気にかけていた。正木智也なら乗り越えていけると、多くの人間が信じている。

(竹村岳 / Gaku Takemura)