確実に、ポイントになるような試合だと、リーダーたちは感じていた。昨年経験した「12連敗」があるから、絶対に気を緩めない。ソフトバンクは7日、楽天戦(みずほPayPayドーム)に5-3で逆転勝利。8回2死満塁で、代打・柳町達外野手が3点三塁打を放って試合をひっくり返した。6回に1点差に詰め寄る適時打を放ったのが、中村晃外野手だった。難しいポジションを託される2024年。“晃さん”の姿を、今宮健太内野手はどう見ていたのか。
2回に甲斐拓也捕手の犠飛で先制したものの、相手先発の藤井に抑え込まれる。5回を終えて無安打と、反撃の糸口を掴めずにいた。6回1死から栗原陵矢内野手の安打で突破口を作ると2死一、二塁となる。中村晃はスライダーをバットの先で拾って、なんとか右前に落とした。「とにかく思い切って行くことだけでした」。6回の守備で3点目を失った直後。試合の展開を考えても、大きな一打となった。
今季は開幕スタメンからも外れた。今も代打にスタメンなどチームに求められる役割をこなすために、試行錯誤を繰り返している。打率.202、0本塁打、11打点。首脳陣は不変の信頼を寄せているものの「まずは自分の成績をしっかり出さないと」と、結果にもこだわっていた。苦悩を重ねながら、この日は確かに中村晃の存在が勝利に繋がった。そんな先輩の姿を今宮は「淡々」としていたと代弁する。
「なにか、変わったことはないです。晃さんが淡々と(準備を)されている姿を僕も見ていますし。監督が言うように、いろんな面で頼りになる方だと思います。ファインプレー(7回無死)もありましたし、最後にはクリ(栗原陵矢内野手が9回2死にゴロを好捕)のプレーもそうですし。ああいうものは見ていると、感じるものがあります」
敗れれば今季最長の4連敗となる試合だった。首位を独走しているチーム状況でも小久保裕紀監督は「ここまで貯金があると、緩みじゃないんですけど、難しいんですよ」と語る。貯金27がある今だからこそ「ここまで(貯金が)あると連敗してもまだどのくらいあると考えるじゃないですか。その中で、打線全体が元気なかったので、ちょっと気になるなと……」と、ポイントに位置付けていた試合だった。
選手たちは、この日の試合における雰囲気をどのように感じていたのか。中村晃が「キーになる試合だと僕もなんとなく思っていた。ずるずる行かないように、今日勝てればと思っていました」と言えば、今宮も「連敗していると、周りが何かをいうのは仕方がない。そういう意味で今日もなかなかヒットが出ずに、我慢しながらいい守備もありましたし。そういうところが勝った要因です」と前を向く。7回無死では、中村晃は横っ飛びでアウトを奪った。打線が苦しむ時ほど、我慢する。わずかなチャンスを広げて、チーム全員で白星を拾った。
3連敗中、打線は1点しか奪えていなかった。中村晃はチームの雰囲気について「良かったですよ」と言いつつ「試合になるとタイムリーが出なかったり、ちょっと受け身になるというか。思いっ切りいけない雰囲気になっていたと思う」と語る。グラウンドの上では、なかなか選手たちが勇気を持てずにいた様子。小久保監督が柳町の決勝打に「よく打ったよ! 今日はポイントになる試合だと思っていたので」と絶賛するのも、この一戦の意味をしっかりと理解していたからだ。
2016年には、11.5ゲーム差を追い抜かれて逆転優勝を許した。リーグにおける今の順位について中村晃は「誰も(ゲーム差は)気にしていないと思います。去年も12連敗がありましたし、この連敗も早く切っておきたい思いはありました」とキッパリ言う。「ゲーム差は、見ていないことはないですけど。その日その日の試合で結果を出していくことしか考えていないです」と目の前の試合に集中しているのも、中村晃らしい。
今宮も「昨年は12連敗をしている。(悪い意味での)雰囲気は、感じるものはもちろんあります」と、2023年の経験が今にも生きている。「もちろん毎日勝つつもりでやっている中で噛み合わない部分も正直出てきますけど。モイネロもヘルナンデスも、今日は守りから完全に持ってきた流れでした」と頷いた。キャリアで味わった全ての苦い経験が、油断するなと言い聞かせてくる。節目となるオールスターまで残り11試合。絶対に手綱は緩めない。
「ファンの人が一番喜ぶのは優勝だと思うので、それしかないです」。目標を見失うことはない。苦しい時こそチームリーダーが頼りになると、実感するような試合だった。