なぜ今宮健太の守備は甦った? 平均以下の選手→NPB最上級…データが語る“劇的回復”

ソフトバンク・今宮健太【写真:小池義弘】
ソフトバンク・今宮健太【写真:小池義弘】

下降線をたどっていた今宮の守備力が突如回復…データで徹底分析

 プロ15年目を迎えた今宮健太内野手が、守備面で近年との“違い”を際立たせている。ここ数年の守備力をデータで見ると、それほど優秀ではなく、むしろ平均より劣るという評価が出ていたが、今季はその様子が一変。守備力が回復傾向にあるのが見て取れる。その裏側に何があるのか、データで迫っていきたい。(※データは6月27日時点)

 まず、近年の今宮の守備が「平均より劣るという評価」に引っかかったファンも多いかもしれない。高い身体能力で多くの打球を捌き、強肩で三遊間の深い位置からでも走者をアウトにする姿が印象的な選手だ。数々の窮地を守備で救った記憶は、ファンならずとも1つや2つではない。

 しかし、データで守備力を見ると評価はがらりと変わる。ここではセイバーメトリクスの「UZR(Ultimate Zone Rating)」という守備指標を用いて守備力の変遷を見てみよう。同じ守備位置を守った平均的な選手に比べ、その選手の守備によって失点をどれだけ減らしたかを数値化。今宮のポジションは遊撃なので、平均的な遊撃手に比べてどれだけ失点を減らしたかを表す。

 昨季の数字から見ていく(表1)。遊撃を1063イニング守り、UZRが-9.7点。平均的な遊撃手が1063イニングを守っていた場合に比べ、チームの失点を9.7点増やしてしまったという評価だ。

 -9.7と聞いてもピンとこない人もいるかもしれない。よりわかりやすく比較すると、昨季のNPB全遊撃手の中で最も悪い数宇である。つまり、最もチームの失点を増やしてしまった遊撃手だったのだ。かつて5年連続ゴールデン・グラブ賞に輝いた名手が、守備では失点を大量に増加させてしまっていたというのだから、なかなかに衝撃的なデータにも映る。

 2014年のUZRは18.7、2015年には12.7。平均的な遊撃手に比べ10点以上も失点を防いでいたようだ。10年前の段階で優れた遊撃手であったのは確か。しかし、そこから数字を落としていく。同じパ・リーグの源田壮亮内野手(西武)が20を超えるUZRを毎年のように記録する中、今宮の値は平均レベルにまで低下。2014-15年のように10を超えることはなくなっていった。2018年には-2.7と初めて平均以下にまで転落した。

ソフトバンク・今宮健太【写真:竹村岳】
ソフトバンク・今宮健太【写真:竹村岳】

 では、何が影響して守備力が落ち込んでしまったのか。UZRの内訳に注目するとわかってくる。内野手のUZRは「守備範囲」「併殺完成」「失策抑止」の3つの評価で構成されている。この3つの和で算出される。

 今宮の値の推移で、大きな変化が起こっているのは「守備範囲」の評価であることがわかる。2014年には18.7点、2015年には11.9点と多くの失点を減らしていた守備範囲が、2016年以降に平均前後にまで落ち込んでいる。昨季のUZR-9.7も内訳を見ると、守備範囲評価で-8.9点。今宮のUZRは守備範囲が狭くなったことで悪くなっているようなのだ。小柄ながら俊敏な動きのイメージがあるかもしれないが、近年は思うように打球が捌けていなかった様子が見えてくる。

昨季「-9.7」→今季はフルシーズン換算で「10」近くまで伸びる

 しかし、今季の今宮は違う。UZRが大きく改善を見せているのだ。昨季-9.7だった値は今季4.1にまで回復。これはシーズン半分程度での数字であるため、フルシーズン換算すると10近くにまで伸びる。今季はハイペースで失点を防いでいるのだ。

 ランキングで見ても傑出している(表2)。今季400イニング以上を守った遊撃手の中で、今宮は2位。あの源田をも上回る数字だ。今季はNPB最上位級にまで回復しているのである。

 値を見ると、やはり例年と異なるのは守備範囲評価。近年は平均前後で推移し、昨季は-8.9まで沈んでいたが、今季はシーズン途中ながら2.5にまで回復。必然的にUZRも高まっている。守備力改善の要因は守備範囲にある。

 具体的にどのように守備範囲が改善されているのか。守備範囲評価は、実際にどういった打球処理によって失点を減らしていたのか、さらに内訳を見ることができる。ここでは打球方向別に「三遊間」「定位置周辺」「二遊間」の3種類に分け、それぞれの打球でどの程度失点を防いでいたのか見ていきたい。「三遊間」の値であれば、三遊間の打球処理で平均的な遊撃手に比べどれだけ失点を減らしたかを意味する。

強肩で突き刺す強烈送球のイメージも…実は二遊間の方が強い

 年度別に見ると、今宮の守備範囲はどのシーズンも似た傾向を持っていることがわかる(表3)。まず目につくのは二遊間の打球への強さだ。どの年を見ても2.0点を下回ることがなく、一貫して平均以上の処理能力を見せ続けている。特に2022年には8.8点。この二遊間の打球だけで平均的な遊撃手に比べ8.8点もの失点を減らしている。普通の遊撃手であればセンター前に抜けてしまうような打球でも、数多くアウトにし続けてきたようだ。

 一方で二遊間の逆側、三遊間の打球に対しての処理能力は高くないようだ。2019年には-8.9点、2022年には-9.4点、2023年には-11.7点まで悪化した。今宮といえば強肩。一塁まで距離があっても、強烈な送球で打者走者をアウトにするシーンが印象に残っている人も多いだろうが、データだと真逆の結果が出ている。二遊間の打球に強く、三遊間の打球に弱い。今宮の守備は言わば“二遊間特化”のスタイルなのだ。もしかすると、そもそものポジショニングの傾向が二遊間寄りにあるのかもしれない。

ソフトバンク・今宮健太【写真:小林靖】
ソフトバンク・今宮健太【写真:小林靖】

 ただ、今季もスタイル自体は変わっていない。守備範囲評価は二遊間で5.9、三遊間で-1.9。例年通り二遊間に強い傾向だが、両方向ともに値は優れたペースで推移している。二遊間はよりハイペースで値を積み上げ、三遊間は例年に比べマイナスが大きくなるペースが遅い。ポジショニングに大きな変化はないが、どちらの方向にも守備範囲が広くなり、結果として三遊間の弱点も隠れているというのが現状だろうか。

 近年は野球のデータ分析が進み、守備は打撃以上にコンディション不良や加齢による影響を受けやすいことがわかってきている。守備力のピークは20代中盤。それ以降、守備力は低下していく。身体の変化がパフォーマンスに表れやすいのだ。

 7月15日には33歳を迎える今宮。データ分析的には守備力のピークを過ぎた選手のはずだ。今後は守備力を一方的に落としていくのが普通である。にもかかわらず、今季一気に巻き返しているのはさすがのひと言。今季は例年に比べかなりコンディションが良いのではないだろうか。バットでも6月は月間打率.286をマーク。首位を快走するホークスの欠かせぬピースとなっている。もしかすると、今こそが今宮の全盛期とも言えるのかもしれない。

(DELTA)

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する「1.02 Essence of Baseball」の運営、メールマガジン「1.02 Weekly Report」などを通じ野球界への提言を行っている。(https://1point02.jp/)も運営する。