12日のヤクルト戦では首脳陣から苦言…「戦う姿勢を感じられなかった」
自分が前さえ向いていれば、必ずやり返すチャンスは来る。悔しさを受け入れて「堂々としていた」から、その姿が嬉しかった。ソフトバンクは22日のロッテ戦(みずほPayPayドーム)に3-1で勝利した。8回1失点で5勝目を掴んだのが、大津亮介投手だ。前回登板に引き続き、バッテリーを組んだ海野隆司捕手は、どんな意識で試合を組み立てたのか。高谷裕亮バッテリーコーチが重要だと語る「指だけじゃ伝わらないこと」に迫る。
初回、先頭打者の岡に対して初球を二塁打される。2死一、三塁とし、佐藤都に先制の適時打を浴びた。その後は要所を締めて打線の援護を待った。7回に打線が同点に追いつくと、101球を投げていたが8回のマウンドへ。上田、ポランコ、ソトを3者連続三振に仕留めて、雄叫びを上げた。大津の粘りと気迫が、打線の逆転を呼び、勝利へと導いた一戦だった。
前回登板は12日のヤクルト戦(同)。5回7失点で3敗目を喫した。4回2死満塁で打席には高卒1年目、プロ2打席目だった鈴木。直球を投げることなく、5球目のスライダーを左前に運ばれた。小久保裕紀監督が「打てるものなら打ってみろという気持ちがバッテリーにあったのかどうかはすごく大事」と言えば、倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「戦う姿勢を感じられなかったのが残念だったし、この姿ではマウンドに上がれないよという話はしました」と、厳しく言及されるシーンとなった。
小久保監督の言葉は「海野もしかりです。海野がそれを引き出したかどうか。真っすぐは0球だったでしょ」と、バッテリーを組んだ海野にも向いていた。反省と悔しさを踏まえたこの日。海野はどのように、大津を引っ張っていったのか。
「球種が結構あるので前回登板も踏まえて、それを消さないように。(大津からも)もちろん試合前から感じるものもありましたし、あとはバッターの反応を見ながらという感じでした」
海野の姿を「堂々としていたと思います。しっかり攻めていく姿は感じましたし、準備してきたのは伝わりました」と評価したのが、高谷コーチだ。ヤクルト戦の後にも「これも糧にしないといけない。明日も試合はあるんだから」。そう話す言葉には、温厚な高谷コーチから隠せないほどの悔しさと怒りが滲み出ていた。自分の管轄内で起きた出来事、悔しさは想像以上だっただろう。
捕手の配球とはその瞬間の状況だけではなく、次の打者やイニング、1カード、もっと言えば年間を見据えて、1球1球を決めていく複雑な作業だ。ヤクルト戦ではバッテリーとして問われた姿勢。高谷コーチも「強気だから真っすぐだとか、インコースだとか、そういうことじゃない」と言う。捕手の不安は一瞬でナインに伝播する。大切なのは、誰よりも堂々としていることだ。
「ハッタリでもいいんです。投手にビビる姿を見せるんじゃなくて『大丈夫だから』と。捕手の弱気が投手に伝われば、野手も見ている、ベンチも相手チームも、お客さんも見ている。打たれたら『うわぁ』ってなってしまうんですけど、堂々としておくこと。なるべくそういう姿は見せないほうがいいです。不安なんですよ。でも、それを投手に見透かされないようにしないといけないし、だから準備することが大切なんです」
野球は投手から始まると言われるが、その前にあるのが捕手のサイン。文字通り、指1本で試合を動かせるだけに、重要なのが「指だけじゃ伝わらないこと」だ。内角に投じるとしても「見せ球なのか、ボールでいいのか、ファウルなのか空振りを狙うのか。大事な時になればなるほど、ジェスチャーとか目線とかが大事。そこまでやって、キャッチャーは初めて手を尽くすと言えるし、投手に対しての配慮です」。だから投手との意思を共有して、同じビジョンを持っていないといけない。ヤクルト戦では悔しさが残ったが、この日は2人の“呼吸”が結果に繋がった。
今回の大津とのバッテリーを、甲斐拓也捕手に任せる考えはなかったのかを問われると「そこの『どうしよう』って迷いはなかったです」とキッパリ否定する。理由の1つとして挙げたのが「『やられたから代える』って、パッと直結しちゃうじゃないですか」。首脳陣の起用に、誰よりも敏感なのが選手。バッテリーを代える際の要因は多くあるが、今回は「大津&海野」のバッテリーを、首脳陣はもう1度信じた。「ひるまないで行ってほしかった」という思いに、2人は結果で応えてみせた。
お立ち台で、大津は言った。「日本一になるために、全力でこれからも腕を振ります。応援、よろしくお願いします」。こんな熱い言葉を聞くために、捕手は毎日、徹底的に準備を繰り返している。
(竹村岳 / Gaku Takemura)