上林誠知に伝えた“最後の言葉” 戦力外、涙の通話の舞台裏…今宮健太&中村晃が明かす思い出

中日・上林誠知との再会を果たしたソフトバンク・今宮健太(右)【写真:竹村岳】
中日・上林誠知との再会を果たしたソフトバンク・今宮健太(右)【写真:竹村岳】

上林「一緒にやってきた柳田さんや晃さん、健太さんは特別な思いがあります」

 ソフトバンクは交流戦18試合を戦って、12勝6敗で終えた。惜しくも交流戦優勝を逃したものの、6つの貯金を作り、21日のロッテ戦(北九州)からはリーグ戦がスタートする。普段は顔を合わせないセ・リーグとの対戦の中で、ナインも喜んだのは中日・上林誠知外野手との再会だった。ソフトバンクで10年間を過ごした、かつての仲間に、今宮健太内野手と中村晃外野手は何を思ったのか。戦力外を察した電話とは――。

 中日とは4日~6日までの3連戦で、2勝1敗。上林は5日に代打で登場して左飛に倒れた。古巣であるホークスとの対戦を「やりづらい」とも表現していた。3日間で、久々に再会した元チームメート。同学年や後輩選手はもちろんだが「一緒にずっとやってきたメンバー、柳田さんや晃さん、健太(今宮)さん、その人たちは特別な思いがありますね」と名前を挙げていた。自身が1軍で戦っていた時、苦楽をともにしたメンバーだ。

 今宮は上林の人柄を「真面目ですよ。真面目すぎるくらい」と笑う。上林は昨オフに戦力外通告を受けると、律儀に1人ずつ、電話で報告を入れた。そして今宮との電話を切った後に「寂しかったんですかね」と、涙を流したという。今宮がかけた言葉は「最後までもがいたらいいんじゃないか」。上林の軌跡を知っているから、偽りのない思いで背中を押した。

「怪我の具合も結構な、重度だった。立ち上げっていうのもすごく難しかったと思いますし、また痛くなるような怪我だったので。それでも誠知の頑張りがあったから、ドラゴンズが獲得してくれたとも思います。あの年でやめるのももったいないですし、持っているものはすごいものがありますから。それが発揮できるかどうかは自分次第ですけどね。だから『やりたいようにやれよ』って話はしました」

 上林は2022年5月に右アキレス腱を断裂し、残りのシーズンをリハビリ生活に費やした。2023年も「毎日痛いです」と漏らすほど、右足はなかなか自分の感覚に馴染まなかった。苦労する姿を見ていたが、それ以上に復活にかける思いも知っている。「ユニホームを脱ぐのか、自分で決められるのならいいですけど、この世界はなかなかそういう人たちは本当に一握りの一握り。タイミングもあるでしょうし」。厳しいプロの世界。別れは寂しかったが、必要とされているのなら、そこで勝負してほしかった。

 昨オフは今宮にとって「親友」と呼ぶ森唯斗投手も戦力外となり「去年は特に寂しさがありました」と振り返る。「この世界にいて15年になりますけど、毎年戦力外は出てくるもの。長くやっていれば一緒にやっていた先輩や後輩が離れていくもの。それは仕方のないことなので。クビは絶対にあることですし」。上林と森、奇しくも戦力外の一報を耳にしたのは、同じ日だったと明かす。

「僕がたまたまゴルフをしていたんですよ。ちょっと噂もありましたけど、唯斗から電話がかかってきた瞬間に『うわ、嫌な感じやな……』『まさか……』って思いました。誠知は、もうちょっと遅かったです。その帰り道だったかな? あの期間の中で電話がかかってくるっていうのは、やっぱり『だろうな』って思いますよね。日頃、電話している人ならあれですけど、誠知から電話がくることなんてないので。仕方ないですよね、この世界」

中日・上林誠知との再会を果たしたソフトバンク・中村晃(左)【写真:竹村岳】
中日・上林誠知との再会を果たしたソフトバンク・中村晃(左)【写真:竹村岳】

 中村晃にとっては、どんな後輩だったのだろうか。「一緒に試合に出ていましたし、思い入れのある選手の1人ですよ」。今宮と同じく電話がかかってきたといい「そんな長いこと話さなかったです。向こうもいろんな人に連絡しないといけなかったと思うので。その時に『1回食事でも行こうよ』みたいな」。中日への移籍が決まった後、ゆっくりと腰をおろして食事に行ったそうだ。

 2018年、上林は全143試合に出場。同年は中村晃も136試合に出場、外野手としても103試合で守備に就くなど、試合前の練習から一緒に過ごす時間は自然と増えていった。ライトに上林という高い守備力を誇る選手がいたことは「僕が外野を守るとなればギータさんと誠知と守ることが多かったですし。送球もいいですし、ホームでアウトにしているところもたくさん見ました。いい選手ですよね」と頼もしさを抱いていた。

 通算1404安打のヒットマンである中村晃の目から見ても、上林は「天才的なバッティングですもんね。あれは誰にでも真似できないです」と頷く。リストを生かした長打力で、2018年には22本塁打も記録した。「思い切りも良くて僕とは全然違いますし、あいつにしかできないようなバッティングじゃないですか。最後の方はなかなかうまく結果に繋がらなかったですけど、まだまだチャンスはあると思います」と、今でも底力を信じている。

 名古屋で3日間の再会。上林が着ていた青色のユニホームに、今宮が「似合っていましたね、よかったですよ。誠知も今年で29歳ですか? まだまだですよ。ここから発揮してほしいです」と言えば、中村晃も「表情を見ても明るかったですし、頑張っているんじゃないかなと思いましたよ」とうれしそうだった。同じ時代を戦った仲間たち。今はそれぞれの地で、輝くだけだ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)