マイペースを貫いてきたことには理由があった。ドラフト6位ルーキーの大山凌投手は、9日に行われた横浜スタジアムでのDeNA戦で初めて1軍に昇格すると、同日にプロ初登板のマウンドに上がった。「緊張はなく、楽しかったです」。4点のリードを許した中での登板。1イニングを投げて1安打1四球2奪三振の内容。初登板を無失点で切り抜けるデビューとなった。
同期の大卒・社会人出身選手の中では一番最後の1軍昇格だった。同2位の岩井俊介投手、同4位村田賢一投手、同5位の澤柳亮太郎投手らが、次々に1軍のマウンドを経験していく中で、2軍にいた大山は常々“マイペース”という言葉を発し続けてきた。
同期の姿を見れば、多少の焦りが出てもおかしくはなかったはず。しかし、大山の表情と言葉からは、決して強がりではないことが伝わってきていた。なぜ大山は周囲を気にすることなく成長し、1軍の切符を掴むことができたのだろうか?
「『最初は2軍で先発して、どれだけ投げられるか。そのあとは1軍の選手がだんだん疲れてくる時期にお前が上がってきて、1発目から結果を出せるように準備しといて』と言われていたので、本当に焦りはなかったです」
こう明かしたのは大山自身だ。春季キャンプでポテンシャルを見抜いていた倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)から、宮崎から福岡に戻ってきた頃に今後のプランと課題、そして目標が伝えられていたという。
倉野コーチは「球の質、真っすぐも変化球も質が高いなって。あとはそれが、高いレベルで維持できるかどうかっていうところだった。その再現性だけだったので」と、2月の時点での大山の投球をこう評価する。元々あった高い能力。課題は、質の高い球を投げ続けることだけだった。
「倉野さんから、5月終わりから6月頭ぐらいに(1軍に)上がってこられるようにと、言われていたので。自分的にも順調にできていました」。伝えられた課題と目標を胸に、2軍では7試合に先発。46回を投げて防御率2.93の成績を残し、予定通りに1軍に昇格した。
「状態が悪いのに(1軍に)上げることはないですよ。プラン通りというか、うまく調整してくれていたので」。2軍での成績と状態を常に確認していた倉野コーチは、願った通りの成長を見せた大山を“戦力”として1軍に昇格させたのだった。
3度目の1軍登板となった16日の阪神戦は2イニングを無失点に抑え、3試合連続無失点という安定した投球を披露した。「石川が抜けるところのカバーというか、そこのポジションは大山が奪い取ったじゃないですけど、そこは競争なので。大山が勝ち取ったと、そういうふうに僕は見ています」。試合後に倉野コーチはこのように語り、リーグ戦再開後も1軍の戦力として留まることになった。
「自分の球を全力で投げきることだけ考えていた結果なので。次に投げる時も変えずにやっていきたいです」。マイペースを貫きつつ、結果を残してきた大山と、その素質をいち早く見抜いた倉野コーチの眼力。交流戦も終わり、リーグ中盤戦へと差し掛かる中、ルーキー右腕の活躍が今後の鍵を握るかもしれない。