嬉しさの中にも、尊敬する先輩に対する心遣いが滲んだ。15日に行われた阪神戦(みずほPayPayドーム)で、プロ4年目の笹川吉康外野手が待望のプロ初本塁打を放った。“ギータ2世”とも呼ばれる22歳は「今までにない気持ち良さがありました」と初々しく振り返った。
先頭打者として迎えた5回の第2打席だった。2ボール1ストライクから、高めに投じられたビーズリーの真っすぐを振り抜くと、打球はライトスタンドに一直線。中段まで達する特大の初アーチになった。一塁ベースを回ると、力強く右拳を握り締め、ダイヤモンドを一周した。
11日のヤクルト戦で初の1軍昇格を果たした。待望の知らせを聞き、自主トレでお世話になっている師匠の柳田悠岐外野手に「(1軍に)上がりました」と連絡すると「ケガなく頑張れ」と返ってきた。ただ、初本塁打の報告は「怪我をして離脱しているので、そっとしておきます」。この回答を笑う報道陣もいたが、本人は真顔。22歳とは思えないほどに、今の柳田の気持ちを察していたからだった。
「いろんな思いで離脱しているのもあると思いますし、責任もあると思うので。そこで僕が(1軍に)上がったんですけど、憧れているというか、尊敬しているので……。(柳田さんが)どういう心境かもわからないので、気軽には連絡できない」
柳田は5月31日の広島戦(みずほPayPayドーム)で右ハムストリングを痛めて途中交代。「右半腱様筋損傷」で全治4カ月ほどと診断され、長期離脱することになった。今宮健太内野手が「自分が柳田さんの代わりっていうのは正直無理」と語り、大ベテランの和田毅投手までもが「柳田の代わりなんていないですから」と言うほどの存在。代えの効かない巨大な柱を失い、チームにも大きなショックを与えた。
笹川が1軍に昇格してから、まだ6日が経っただけだ。14日にプロ初安打を記録し、翌日にはプロ初本塁打も放った。「1軍に上がることは、自主トレでお世話になっているので伝えなきゃと思って連絡したんですけど、ヒットを打ったことも連絡していなくて、ホームランも。自分でも気を遣っているというか……」。自主トレでお世話になっている大先輩とはいえ、怪我で離脱しているその心中を慮れば、簡単に連絡などできるはずがなかった。
自身も今年の元日、腹部の激しい痛みに襲われた。夜間救急で受診した結果は「盲腸」だった。予定していた柳田との自主トレ参加も断念せざるを得なかった。「柳田さんから電話をもらって、ちょうど手術前で。『俺もなったから、焦らずに頑張れ。治ったら自主トレ来いよ』って言われました」。楽しみにしていただけにショックはあったが、柳田からの電話は「嬉しかった」と身に染みた。
当然、「一緒にベンチで喜びたかったんですけど」という思いはある。お互いが落ち着いたいつか、心から喜びの連絡を入れたい。
「(柳田さんを)超えなきゃいけないので、今、チャンスを生かすしかないですね」
憧れと尊敬の思いは持ち続けながらも、巡ってきた大きな機会を逃す気はない。