ソフトバンクは15日の阪神戦(みずほPayPayドーム)に6-2で勝利した。6回1失点で3勝目を挙げたのは、東浜巨投手。「少し慎重になりすぎたところはありますが、1イニングずつ丁寧に投げることができたと思います」と、落ち着いた口調で振り返った。打球が直撃し「すみません」とコメントした日から、中8日。やり返したい思いを抱いているのは、甲斐拓也捕手も同じだった。バッテリーで見せた“執念”を、試合後の言葉から紐解いていく。
初回から無死二塁となったが、無失点で切り抜ける。2回から5回までは先頭打者の出塁を許さず、確実にリードを守っていった。グラウンド整備を挟んだ6回は1死二、三塁のピンチを招く。左打者の前川を一ゴロとすると、その間に三走が生還。続く糸原は外角のシンカーで遊ゴロに仕留めて、最小限の失点でしのいだ。
東浜の前回登板は今月6日の中日戦(バンテリンドーム)。3回無失点ながらも途中降板となり、チームも敗戦した。3回2死で福永の打球が右腰付近に直撃。小久保裕紀監督も「あの打球なんで多分肉じゃなかったら危なかったですよ」と言うほど、強烈な一打だった。中8日で迎えた登板。当然、気合は入っていた。
「間(間隔)を空けてもらいましたし、むしろその配慮に対して結果で応えたいという思いでした。そういう意味では6回で降りたので、もっと長い回を投げないといけないですし。ああいう点差になった時点でもっと投げられなかったのは反省です」
右腰付近はもう「大丈夫です」と頷く。中日戦後に「(話せることは)ないです、すみません」と多くを語らなかったのも、やり返したい思いが大きかった何よりの証だった。ライナーが直撃した時、アウトにはできなかったものの、最後まで打球を処理しようとしていた。あまりの痛みにグラウンドで膝をついて悶絶したが、アウト1つに対する東浜の執念が確かに伝わってくるプレーだった。
その姿を見ていたのが、中日戦でもバッテリーを組んでいた甲斐だ。打球が直撃して降板という結果を「その日のために調整している先発投手が、ああいう形で降りるというのは悔しかったと思います」と代弁する。東浜に白星がついたのは5月5日の西武戦(ベルーナドーム)以来。常に一戦必勝の姿勢ではあるが、前回の降板も踏まえてこの日は「もちろん初回から飛ばしてくれていましたし、僕もなんとか勝たせたいという思いでした」と、熱い思いを受け取りながらリードしていた。
先発投手がマウンドに立てるのは、多くても週に1回。貴重な登板でチームが敗れれば、もどかしい思いは1週間以上続くことになる。高谷裕亮バッテリーコーチも「勝ち負けとか、自分の仕事を果たしたかどうかで1週間の気持ちの持ち方も違う。それはキャッチャーも同じように、気持ちを共有してあげないといけない」と捕手側の目線で語る。「よかったことも悪かったことも踏まえて『なんとか次は』だとか、そういう感情はあると思う」。東浜と甲斐、やり返す気持ちまでシンクロして掴んだ1勝だった。
中日戦、最後まで打球を追った東浜のプレー。高谷コーチも「執念ですよね」と表現する。「その前回は巨人戦ですし、この試合(阪神戦)にかけていたのはあったと思います。拓也も同じ思いだったと思うし、それ以上に責任も感じていた。お互いの思いはすごく伝わってきました」。この日、首脳陣にまで届いていたバッテリーの“熱”。6回1失点ではあったものの、チームが勝ったことが何よりだった。
投球を振り返って東浜は「慎重になりすぎた」と言う。「前の2試合があまり良くなかった。どうしても難しい立ち上がりになると思っていました」。前々回の登板、5月30日の巨人戦(東京ドーム)でも5回6失点を喫してチームは敗れた。序盤から試合を壊したくない意識が、自然と働いていた。その中でも「僕のタイプ的に、外のシンカーがあるので、それにヤマを張っているように見えた。うまく使えました」と丁寧にインコースをつきながら阪神打線を封じた。まだ3勝目だが、自分の矜持は何も揺るがない。
「そこ(白星)に関してはいろんな兼ね合いもありますし、勝ち星というよりは自分が投げた試合でチームが勝てばいいと思っています。そこが一番大事なこと。貢献するという意味では、最悪僕に勝ち星がつかなくても、チームが勝てばと思ってマウンドに上がっています」
甲斐も、少し微笑んで振り返る。「よかったです、勝たせたかったので」。1つの白星を掴むために、バッテリーはこんなにも強い気持ちで戦っている。