大打者への第一歩になるかもしれない。14日の阪神戦(みずほPayPayドーム)で廣瀨隆太内野手がプロ初本塁打を放った。「ファンの方々の歓声を受けて、幸せでした」と、ダイヤモンドを一周した感想を満面の笑みで振り返った。廣瀨が描いた初ホームランを見て「素晴らしいホームランだったと思います」と頷いたのは山川穂高内野手。続けて「僕も経験ありますけど……」と、自らの体験を語り出した。
両チーム無得点で進んだ試合。5回2死から笹川吉康外野手がプロ初安打となる中前打で出塁し、盗塁を成功させた直後。1ボール2ストライクと追い込まれた中で、真っすぐを思い切り振り抜くと、打球は左翼テラス席に飛び込んだ。
試合前の打撃練習では同じ組で打っている山川。4日の中日戦(バンテリンドーム)で初安打を記録するまで、17打席を要したルーキーに対して「俺なんか20タコだよ(実際には18打席ノーヒット)」と、自身のルーキーイヤーの経験を伝えていた。慶大時代には通算20本塁打と、長距離砲としての片鱗を示した廣瀨。そのポテンシャルを山川はどう感じているのだろうか? 自身の経験を踏まえ、廣瀨が歩むであろう道のりを描いた。
「教えてどうこうなる問題でもない。自分で感じて、『こういう選手になりたい』とか、『こういう風に打ちたい』とかいうものができて、その目標に向かってる最中に、同じようなことができている選手に対して質問したいというのが出てくるので」
続けて山川は廣瀨の現状を口にした。「今は多分そういうことではなく、日々の守備練習にしても、走塁にしても、バッティングにしても、まだ自分がどういう選手になるという目標よりは、本当に1日1日必死で頑張ってるっていうところだと思うんです」。
シーズン開幕後に正二塁手の牧原大成内野手が怪我で離脱。さらに、その穴を埋める活躍を見せていた三森大貴内野手も離脱した。今が定位置を掴む大チャンスだからこそ、山川は廣瀨の心境を察する。
「それは僕も同じ経験をしていますし。年齢を積み重ねていって、少し余裕が出た時に、自分はこういう風になっていくっていうのがもっと強く出てくる。その時に同じ右バッターとしてとか、そうじゃないとしても、なんかそういう会話になれば、こう思うよっていう話はすると思います」と、山川は廣瀨の今後を密かに見据える。
山川のプロ1年目は、14試合に出場して30打数3安打2本塁打、打率.100の成績。3度の本塁打王を獲得しているが、ルーキーイヤーは思うような数字を残せなかった。廣瀨の姿勢については「聞きに来るのか来ないのかは分からないですけど」とした上で、山川自身の過去を振り返る。
「僕は入団してすぐに中村(剛也)さんに(話を)聞いたわけじゃないので。入団して、まず2軍で自分の与えられたことというか。守備練習っていうのは、もう自分の感覚なんか0なんですよ。コーチに言われたことをただやっている状況なんです。でも、ただやってても上手くなるんですよ。そうやって上手くなるし、バッティングに関しては来た球を打っていくっていうところですかね」
山川に転機が訪れたのはプロ入り後しばらく経った後だった。「それがやっぱり2年目、3年目になった時に、僕は初めて中村さんに質問とかどんどん聞けるようになりました。中村さんの姿を1軍で見られるようになってから、急激にバッティングが変わっていったというか。俺もこういう風になりたいってなっていったので。多分そういうところが大事だと思います」
通算478発。史上9人目の500号本塁打まで、あと22本としている中村の背中を追いかけるのは、自然な流れだった。「急激に変わった」というほど、描くことができた成長曲線。廣瀨にも余裕が生まれ始めると、大打者への道が見えてくるのかもしれない。
「バッターの大前提は強く振れることだと思うので、彼はバッティング練習を含めて、試合でも臆せずというか、どんどん振っていくことができていると思うので。それプラス、正確さとなってくるので。まだ1年目ですし、僕の1年目に比べたらね。僕はこんなに試合に出ていないですし、すごいと思います」
通算230発の山川が言うからこそ説得力がある。自身も18試合ノーアーチという中、「僕も自分のことでいっぱいいっぱいだったので、そんなに周りが見られている感じではなかったんですけど」と自分にもベクトルを向けたが、廣瀨のプロ初アーチには感じるものがあったようだ。