打率.419の柳町達に選択したバント 中村晃の「技術にかけた」…首脳陣が明かす“真意”

ソフトバンク・柳町達(左)と中村晃【写真:竹村岳】
ソフトバンク・柳町達(左)と中村晃【写真:竹村岳】

勝ち越し打で見せた渾身のガッツポーズ

「.419」ではなく「.183」にかけた首脳陣の決断とは――。11日のヤクルト戦(みずほPayPayドーム)、試合を決めたのはベテランの一振りだった。同点の7回無死一、二塁で柳町達外野手が犠打を決め、続く中村晃外野手が決勝の2点適時打を中前に運んだ。打率.419の高打率を残していた中で柳町に犠打を選択した真相を奈良原浩ヘッドコーチが明かした。

 劇的な一打が生まれるまで10打席ノーヒット、打率.183と苦しんでいた中村晃に久しぶりの笑顔が戻った。「本当にみんなで繋いでつくった逆転のチャンスだったので、なんとか打てるようにと思いました」。打球が遊撃手の横を抜けて中前に転がると、ベンチからはナインが飛び出し、ヒーローを祝福した。驚きだったのは、その直前。打率.419の柳町に対して送りバントを選択した理由を奈良原コーチはこのように語る。

「あのシチュエーションは、勝ち越しが目前というところだったし、終盤ということもあったので、バントという選択肢になったと思います。点数を取る最善の策がバントだったっていうところでしょうね」

 この日まで思うような結果を残せずにいた中村晃。今オフの山川らの補強によって出番が限られる中でも、これまで同様に黙々と準備をして試合に向かう姿勢は変わることがない。

 そんな中村晃の姿には、小久保裕紀監督も「彼の良さは言い訳しない、人のせいにしない、環境のせいにしない」と全幅の信頼を置く。奈良原コーチも「彼のバッティング技術にかけたってところですよね」と、数字だけでは判断できない期待が込められた打席だったという。

「繋いで繋いで、大チャンスで回ってきたので。本当にいい結果が出てよかったです。ベンチに帰ってみんなが笑顔で迎えてくれましたし、出迎えてくれるっていうのはすごく嬉しいこと。ああいう場面を少しでも多くつくれるようにやりたいなと思います」

 カード初戦の価値ある1勝と、それをもたらした殊勲打を中村晃はこのように振り返った。劇的なシーンをお膳立てした柳町も「僕がいい形で送れば、晃さんならしっかり打ってくれるだろうなと。そういう信頼感を周りに感じさせるのはすごい」と先輩への思いを口にした。

「黙々と、しっかりと自分のやるべきことやるっていうとこでしょうね。そこに尽きると思います」。中村晃の適時打の場面を振り返り、奈良原コーチはこう語った。チャンスで中村晃につなぐ――。首脳陣がそう決断した理由は、17年目を迎えた34歳の姿勢と技術があるからだった。

(飯田航平 / Kohei Iida)