マウンド上で「ボーッとすんな」 今宮健太がかけた言葉…8点差でも与えた緊張感の意味

ソフトバンク・杉山一樹(手前)と今宮健太【写真:竹村岳】
ソフトバンク・杉山一樹(手前)と今宮健太【写真:竹村岳】

今宮健太が後ろを守っていると「やっぱり緊張感がありますし、ピリッとする」

 プロとして、最後まで勝利を目指す。その姿勢が詰まった一言だった。「ボーッとすんな」。ソフトバンクは12日、ヤクルト戦(みずほPayPayドーム)に3-9で敗戦した。先発の大津亮介投手が5回7失点と試合を作れなかった中で、3番手として登板した杉山一樹投手も1回2失点を喫した。終盤で点差を広げられてしまった中、今宮健太内野手からかけられた言葉が胸に刻まれた。

 6点差をつけられた7回からマウンドに上がった。主砲の村上は遊飛に仕留めたが、サンタナへの初球だ。157キロ直球を右中間テラスに運ばれる。杉山にとって4月19日のオリックス戦以来の失点となった。続くオスナには高めに浮いた変化球を左翼テラスに持っていかれ、2者連続での被弾。登板前まで防御率は0点台に突入するなど安定感を見せてきた今季だが、ヤクルト打線に捕まってしまった。

「球種の選択ミスでした。(サンタナには)カーブのサインに首を振って真っすぐを投げたので」と、一夜明けた今だから反省もできる。オスナがソロアーチを放ち、三塁を回ろうとしていた時。スッと今宮がマウンドにやってきた。厳しくもあり、たった一言で杉山を立ち直らせた。

「ボーッとすんなよ」

 2失点を喫し、オスナがホームを踏む。審判から嶺井博希捕手が新たなボールを受け取ったが「嶺井さんが僕にボールを投げようとしていたんですけど、僕はスコアボードを見ていた」。返球を、なんと右手で捕球する。「ちょっとふわふわしていました。僕の力不足です」と振り返る。投手なら、打たれた直後は誰もが放心してしまうもの。すぐに自分を取り戻したのも、今宮の言葉のおかげだった。

「ちょっとイライラもしていたんですけど『しゃーないから切り替えろ』と言われましたし、それで切り替えられました」

 試合以外で、6歳差の今宮との接点は「そんなにはないです」と言う。ゴールデングラブ賞5度の名手が後ろを守ってくれることは「安心できますね」と感謝しきりだ。堅実な守備だけでなく、いるだけで確実に内野の空気が締まる。「やっぱり緊張感がありますね。しっかりしないといけないと思えますし、ピリッとします」。プレッシャーを与えているのではない。アウト1つを奪うために、今宮も最高の準備をしているからこそ、投手も思いに応えたくなる。

 今季、すでにキャリアハイの19試合に登板。2勝0敗5ホールド、防御率1.80の成績を残している。1軍で経験する多くのことが初めて。改めて内野手の存在に「打たれることが嫌だったので自滅が多かったんですけど、野手に助けてもらう方がいいと少しずつ思えるようになった」と頭を下げる。課題だった制球面にも向き合い、自分なりに結果を追い求めてきた。「これまでは四球を出して後ろを見ると、野手の“何やってんだ”っていうオーラもなんとなく見える。そう思うと打ってもらう方がいい」と、バックの気持ちまで頭に入るようになった。杉山の確かな成長だ。

 本多雄一内野守備走塁兼作戦コーチは、内野手は「敏感でなければいけない」という。今宮の姿を踏まえ、内野手が投手に声をかける時、どんなことを大切にするべきなのか。「言葉というよりかは……」と語り出す。

「実際、投手は打たれて頭に入らない。言葉や内容よりも、間合いですね。嫌な間合いがあった時に敏感でいられるか。それって誰もが感じることじゃないし、経験した人が『今(声をかけに)行け』っていうのは簡単なんです。昨日は2発を打たれて、完全にチームとしてはダメ押しみたいな感じでしたけど『切り替えて次抑えてくれ』って感じの声かけだったと思いますよ」

 バッテリーは相手の作戦にも警戒しつつ、バッターを抑えることに集中する。だからこそ内野手が常に一歩引いて“嫌な間合い”を察知しなければならない。9点差がついたとはいえ、2者連続被弾の後。「ボーッとすんなよ」という言葉についても「『打たれたけど、ダメ押しされたけどズルズルいくな』ってことだと思います。その日のことだけじゃなくて、明日のこともあるじゃないですか。まさにそれを察知した声かけですね」と解説した。

「難しいのは接戦の時ですよね。走者の足が速いからここだけは気をつけろよ、とか。嫌な予感がする中で声をかけに行くのか、事前に何もせずに(相手からの作戦が)来るのか、でも違います。ピッチャーって孤独なので、その中で行ってあげる意味がいろんな場面である。『こいつセーフティバントあるから、三塁線に降りろよ』とか、言えるのは内野手ですよね。いっぱいいっぱいになっている投手の頭を助けるというか、声かけにはそういう役割があると思います。大事なのは間合いとポイント、あとは何もなくても行くこと、です」

 点差が開こうと、最後のアウトを奪われるまで諦めてはいけない。8点差で「ボーッとすんな」と声をかけたのも、プロ意識の表れだ。杉山も「野手の方々にいっぱい助けてもらっているので、今度は返していけるように」と前を向いた。今宮健太が、ショートを守っている。ホークスが誇る最大の魅力だ。

(竹村岳 / Gaku Takemura)