7日の日本ハム戦でサヨナラ勝利…松本裕の行動をファン絶賛「人間性に惚れた」
大興奮に包まれたからこそ、1人だけ取った冷静な行動が絶賛された。開幕から33試合を終え、首位を走っているソフトバンク。大きな原動力の1人が、10年目の松本裕樹投手だ。ここまで17試合に登板して0勝0敗、15ホールド、防御率0.55という圧倒的な成績。マウンドでも表情を崩さず、クールな松本裕が絶賛されたのが、5月7日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)だった。
試合は同点のまま進んでいき、延長戦に突入。松本裕は延長10回に登板して、2つの内野ゴロ、最後はマルティネスを見逃し三振に取ってバトンを繋いだ。延長12回無死満塁から周東佑京内野手が放った犠飛でサヨナラ勝利。一塁ベースの近辺でナインが周東に集まっていく中で、松本裕はクロスプレーが行われた本塁近くにおり、捕手の伏見のマスクを拾って手渡していた。この行動が映像にも抜かれており、ファンからも「人間性に惚れた」「これがスポーツマンの鏡」と絶賛が相次いだ。
勝利という結果、嬉しさに酔いしれるようなシーン。球場のボルテージも当然、一番高まった瞬間だった。なぜ松本裕だけが冷静に、相手選手へのリスペクトが伝わってくるような行動が取れたのか。
「いや、(マスクが)落ちていたので。特に意味はないですけど、落ちていたので」
本人は照れ笑いする。試合を決めたのは周東のバットで、誰もが周東に注目した瞬間だった。一方で、サヨナラ勝利を生んだ一連のプレーの中で松本裕なりに思ったヒーローは、緒方理貢外野手だった。だから、本塁近辺にいた。
「僕は佑京さんもそうですけど、ランナーの方が紙一重の走塁をしたと思ったので、あそこにいました。綺麗なヒットだったら佑京さんの方に行きましたけど、頑張って走って帰ってきてくれたので、シンプルに緒方の方に行きました。それでリクエストがある雰囲気だったので、いったん落ち着いてというところで」
日本ハムにとっても失点は負けを意味するシーンで、リクエストを要求。まだホークスの勝利は、決まり切っていない。自分を落ち着かせようとした時、足元を見たら伏見のマスクが落ちていた。手渡すだけではなく、自分のユニホームで汗を拭いてから手渡したことにも「そりゃあ拭くでしょう(笑)。みんな拭くか、砂を払うか、くらいはすると思いますよ。バッターが打席に入る時も、みんなだいたい拾って拭いたりしていますし、それと一緒だと思います」と当然の行動だと語る。
サヨナラの瞬間に冷静だったのは、この日だけではない。4月27日の西武戦(みずほPayPayドーム)で延長10回、川瀬晃内野手が右中間への打球で試合を決めた。プロ初の劇打。西武の右翼だった金子は打球を拾い、記念球を手渡そうとしていた。その時に受け取ったのも松本裕だった。「あの時は金子さんが渡す相手を探していて、それに気がついたのでもらいに行っただけです」とやっぱり謙遜する。記念球を拾いに行った金子の行動も含め、川瀬も「絶対に嫌な気持ちにならない」と言う特別な瞬間。少しだけ、松本裕の冷静さがそこを彩っていた。
開幕して、リリーフとして圧倒的な存在感を見せている2024年。0点台の防御率を見ても「全然気にしていないです。まだ始まったばかりですから」と、どこまでも足元を見ている。17試合登板はチームトップの数字だが「準備の回数は減っていますし、基本的にはホールドシチュエーションっていう展開もだいたい決まっていますから」。役割が明確だからこそ、自分の仕事に集中できている。
高卒での入団から10年目を迎えた。グラウンドの上からだけでは見えづらいかもしれないが「もちろんそれはありますし、一緒に戦っているライバルですから」と、松本裕を含めた選手みんなが、相手へのリスペクトを持って戦っている。「たまたま映像に残っていただけで、みんなもそうしたと思います」。なかなか表情には表れないかもしれないが、咄嗟にこんな行動ができる松本裕だから、応援したくなる。
(竹村岳 / Gaku Takemura)