プロ11年目の石川柊太投手が32歳にしてなお進化を示している。鍵になるのは「147.6」「63.4」という2つの数字だ。8日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム)でおよそ1か月ぶりに先発し、6回1失点の好投で今季2勝目を挙げた。奪った18アウトのうち、13個がフライアウトによるもの(5個は三振)で、うち10個の決め球は直球だった。ここまで防御率1.42と安定した投球を続けている右腕が新境地を開拓している。
若々しさに満ちた投球だった。初回に1点を失ったものの、その後は持ち前のハイテンポな投球がさえた。3回からは4イニング連続で走者を出さず、6回をわずか71球で投げ切り、チームを4連勝に導いた。何より効果的だったのは全投球のうち45球を締めた真っすぐ。石川が口にしたのは、例年とは違う手ごたえと、日本ハムに対する研究から導かれた戦略だった。
「今年は真っすぐのホップ成分が多いので、打者がボールの下を打っている感じはあると思う」。この日の全投球に占める直球の割合は63.4%。セイバーメトリクスの観点からプロ野球の分析を行う株式会社DELTAのデータによると、本格的に先発転向した2020年以降は45%を少し下回る数値で推移しており、今回の数字が突出していることが分かる。
代名詞のパワーカーブを生かすためには、真っすぐの出来が重要になる。この日、球場で球速を計測できた直球は41球。145キロに満たなかったのは1球のみ(144キロ)で、最速は初回にマークした150キロ。平均球速は147.6キロだった。DELTAによると、近年は145キロ前後を推移しており、状態の良さも数字に表れた形だ。
なぜ真っすぐを増やしたのか。そこには石川ならではの観察眼があった。「前回に日本ハムと対戦した時に、変化球についてこられていた感覚があった。初回の郡司選手のタイムリーもカーブを打たれたもの。それもあって、真っすぐで押していこうと思った」。力で押す投球に切り替えた結果、凡フライを量産することに成功した。
かつては真っすぐが150キロ中盤に迫るパワーピッチャーだったが、ここ数年は出力が落ちたことを気にかけることも増えていた。昨季中のある試合では「試合が中盤になるとスピードがガクッと落ちる。年齢も影響があるんだろうけど、もどかしい思いはあります」とこぼしたこともあった。
12月には33歳を迎える今季、投球に一つの変化を加えた。試合時間の短縮に貢献した投手に贈られる「スピードアップ賞」を2020年、2021年に輝き、“殿堂入り”するほどテンポのいい投球が持ち味だったが、あえてスピードダウンを意識した。投球に入り、左足を挙げた際に一瞬の「ため」をつくるようになった。
「最近はバッターがタイムをかけたり、あえて構えを遅くして投球間隔を長くさせることが多くなってきた。それならもう早く投げるのをやめようと思って。ためを作ることでしっかり力を体に乗せることができるような感覚が出てきた」。相手の策を逆に利用し、真っすぐの質を向上させることができたという。
今季は先発登板2試合、中継ぎ登板4試合と、チーム事情を優先した起用法に見事にこたえている。小久保裕紀監督は8日の試合後、石川に対して「彼自身はどのポジションでも優勝するために貢献したいと言ってくれている」と、感謝の思いを示した。「どこで投げようが結果を出さないと、『これだけ年俸をもらっているのに』ってなる」と右腕も自らの役割を自覚している。首位を独走するチームにとって、欠かせない存在となりつつある。