バットに当てた栗原陵矢からも“感謝”…ベンチで先輩選手から「ナイスラン」
積み重ねた信頼関係が、プレーになって表れた。ユニホームが汚れることが、今は嬉しくてたまらない。ソフトバンクは1日、楽天戦（みずほPayPay）で3-4で敗戦した。最大の見せ場は、一時同点とした7回の攻撃だった。1死三塁から同点のホームインを果たしたのが、代走で出場した仲田慶介内野手だ。2軍監督時代から続く小久保裕紀監督との“あうんの呼吸”。さらに、好走塁を間近で見ていた周東佑京内野手も“1軍クラス”だと評価した。
先発の大関友久投手は4回3失点。打線も序盤から走者を出すものの、ホームベースが遠い展開が続いていた。反撃が始まったのは7回で近藤健介外野手、川村友斗外野手が連打。リチャード内野手も二塁打で1点を返し、なお無死二、三塁の場面で仲田が二塁走者として代走に送られた。中村晃の内野ゴロで1点差となり、1死三塁でベンチは栗原陵矢内野手を代打に送り出した。
5球目を栗原がバットに当てると、仲田は全力でホームへ。最後は頭から突っ込んだ。顔をあげると、主審の両手が広がっている。価値のあるガッツと走塁で、試合を振り出しに戻してみせた。真後ろから見守り「セーフ」のジェスチャーをしていた周東も「完全にセーフでした」と代弁する。
「完全にセーフでした。際どくもなかったですよ。普通にセーフでした」
仲田本人も「めちゃくちゃ気持ちよかったです」と胸を張る。1死三塁という様々な可能性に備えないといけない状況で「“ゴロゴー”のつもりだったんですけど、ライナーには飛び出さないとか、ピックオフ（の可能性）もあったので……。でもギャンブルではなかったので、初球なんてあまりいいスタートのシャッフルが切れていませんでした。毎球いいスタートを切れるように考えて、最後の球はめちゃくちゃ良かった」。5球目という勝負の中で、しっかりと最後にタイミングを合わせてみせた。
小久保監督も「仲田がいい走塁をしましたね」と頷く。三振だけは許されない状況で、バットに当てた栗原もベンチで「『ありがとう』って言いました。仲田がすごいです、ありがたいです」と感謝する。仲田も「嬉しかったです。『ナイスラン』とも言ってもらいましたし、みんなからも声をかけられました」と照れくさく笑った。育成14位からの入団。1軍にしかない緊張感を全身で味わっているのだから、ナインからの言葉の全てが嬉しかった。
開幕以降、スタメン出場は1度もない。この日は序盤から追いかける展開で「今日は『リチャードが同点のランナーになったらそこで代走行くぞ』とは前の回から言われていました。そこに向けて準備していました」と明かす。その伝達も「監督からコーチを通じて言われましたし、そこの準備はしていました。本当にその通りになって、大事なランナーだったと思います」と小久保監督の“先読み”が見事に的中していた。
「同点」という“冠”がつくプレーとなった。選ばれて1軍にいるのだからどんな役割も大切ではあるが「こないだの初ヒットもそうですけど“野球しているな”って感じはしました」とはにかむ。緊張感も重圧も、この瞬間を味わいたくて3桁時代から必死に汗を流してきた。ギリギリのプレーの中で結果に繋げたことで「すごく熱くなりましたね。（代走を告げられた時から）やってやるって燃えるものがありました」と、試合後も興奮した表情だった。
小久保監督にとっても、2軍で指揮を執っていた2年間、仲田とプレーをともにした。川村や緒方理貢外野手、川瀬晃内野手らも含めて今のベンチメンバーは「目が合ったら、行ける準備をしてくれている」と表現する。仲田も「状況を見ていると大体、予想はつくので（首脳陣を）見るようにしています。そしたら（頷くジェスチャーをしながら）『あるぞ』みたいな感じで、目で伝えられる感じはあります」と無言のアイコンタクトで、タイミングを伺っている。
「1回、オープン戦でそういう（途中から出場する時に）時に僕が見ていない時があったんです。それで監督から『どんどん見た方が出られるぞ』って言われたことがありました」
自分から“俺を使え”と、訴えかけてくる選手を小久保監督も待っているそうだ。仲田も「そういうアピールが大事ですよね」と呼応して、少しでも1軍の戦力になろうと準備を重ねている。春季キャンプから1軍に帯同する仲田の走塁センス。周東は「普通じゃないですか？ 1軍で、1軍のレベルで後から行くんだったら普通だと思いますよ」と、らしい表現をした。裏を返せば“1軍の代走”のレベルには達しているということ。着実に力をつけ、少しずつ仲田が成長している何よりの証だ。
（竹村岳 / Gaku Takemura）
