石川柊太が抱く不安と葛藤「壊れるかもしれない…」 6年前に払った代償

ソフトバンク・石川柊太【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・石川柊太【写真:荒川祐史】

ここまで登板5試合で防御率1.38の石川 次回は8日の日本ハム戦で先発予定

「体が壊れるかもしれないという怖さはありますよ」

 石川柊太投手が口にしたのは、好調の裏に潜む不安の存在だった。今季は開幕直後にチーム事情で中継ぎに回り、ここまで5試合の登板で1勝負けなし、防御率1.38をマーク。2020年には11勝、勝率.786で投手2冠に輝き、昨季は無安打無得点を達成するなど実績を残してきた右腕だが、2018年オフに右ひじを故障して以降は、常に葛藤を抱えながらの投球だった。

 1日の楽天戦(みずほPayPayドーム福岡)。2番手で3イニングを無失点に抑えた石川の投球は、かつての「圧倒感」を思い起こさせるものだった。3点を追う5回にマウンドに上がると、先頭の浅村は真っすぐ3球勝負で空振り三振。続く島内、阿部はそれぞれ2球で凡打に打ち取った。全7球はすべて直球。わずか2分で楽天の攻撃を終わらせた。このピッチングが劣勢だった試合の「ターニングポイント」になった。

 持ち前のテンポいい投球が、ゼロ行進を続けていた打線に好影響をもたらした。5回から3イニング連続で先頭打者が出塁。5、6回は無得点だったが、7回に打線がつながり一挙3得点で同点に追いついた。最終的にホークスは敗れたが、小久保裕紀監督は「3点を追いついたのは石川(柊太投手)のおかげなので」と右腕の働きを称賛。倉野信次1軍投手コーチ(チーフ)兼ヘッドコーディネーター(投手)も「毎日ブルペンに入って、難しい役割をしてくれている。本当に助かっています」と石川への感謝を口にした。

ソフトバンク・石川柊太【写真:荒川祐史】
ソフトバンク・石川柊太【写真:荒川祐史】

 育成入団から這い上がった右腕はプロ5年目の2018年、圧巻のパフォーマンスを見せつけた。中継ぎでの6勝を含め、登板42試合で自己最多の13勝をマーク。150キロ台中盤の直球と、切れ味鋭いパワーカーブを軸にフル回転した。ただ、実際はかなりの無理を体に強いていた。右腕はこう振り返る。

「無理やり体をねじって156(キロ)とか投げてましたけど、体はボロボロだったんで。そうなっていいのなら、あれだけのパフォーマンス、出力を出せる可能性はすごくあるんですけど……。ああいうピッチングが1年持つか持たないか。結局、大ケガをして1年を棒に振ったので……」

 強烈な光を放った代償は確かに大きかった。2018年シーズンの終盤に右ひじを故障すると、翌2019年は2試合の登板にとどまった。2020年には11勝3敗、防御率2.42の好成績を残すも、2021年以降は昨季まで3年連続で負け越し。思うような投球ができない現実に葛藤を抱き続けてきた。

「ここ4、5年は大ケガこそしないけど、ちょっと成績も際どいみたいな感じで。ケガをしないことが根底にある。だけど、ケガをしないようにして抑えられるほど、この世界は甘くない。体がボロボロにならず、かつハイパフォーマンスを出す。そこが自分の中で一番難しい部分ですね」

 プロ11年目を迎えた今季、石川が好投を続けている背景には1つの試みがあった。「今は若干、ブレーキを踏んでいない感じはある。体が壊れるかもしれないというのも怖さはあるけど、それがここまで投げられている要因でもある」。故障のリスクを理解しながらも“限界点”を探っている最中。「今のところは体的なところも悪くないし、パフォーマンスもいい部分がある。自分の中では大きな収穫」と、手ごたえをつかみつつあるようだ。

 中継ぎで好投を続けたこともあり、次回は8日の日本ハム戦(みずほPayPayドーム福岡)で約1か月ぶりの先発登板が見込まれている。かつての圧倒感を取り戻しつつある右腕。覚悟のこもった投球が見られるはずだ。

(長濱幸治 / Kouji Nagahama)